超短編小説「猫角家の人々」その35
程なくして、阿蘇太郎は、覚醒剤取締法違反で収監される。これで、3年は娑婆には出てこれない。
阿蘇太郎の老母の成年後見人である猫角蜜子は、これで、心おきなく、老母の財産の洗い出しに掛かれる。徹底した家探しをして、金目のものは、次々持ち出す。愛車のアルフォードが活躍する。ネコネコハウスの支所の一室にこれらの遺留品を移動する。少しばかりの現金と預金通帳数通はみつかった。後見人の権威をかざして、これらを現金化した。だが、たいした金額にはならない。
宝石と金製品が少しあったが、これは、結構な金額になった。亡くなった老父が趣味で収集していた銅版画が、そこそこの金になった。これはまあまあの収穫だった。だが、キメセクのヒポちゃんへの謝礼や太郎への前渡金で、現金収入の大半は使ってしまっている。肝心の不動産の権利書は見つからない。これでは、全然、採算ベースに乗らないではないか。苦労ばかりして、実入りのないババをつかまされたということか?実際、猫角姉妹の懐にはほとんど金が入っていないではないか。
本来なら、爺さん婆さんに保険を掛けて、たっぷり現金化したいところだ。だが、猫角姉妹は、借金取りに追われ、目先の返済に迫られている。じっくりと何年も掛けて生命保険詐欺を仕組むような状況にないのだ。
奪取した婆さんの財産については、役所に報告しなくてはいけない時が来る。預金通帳のコピーの提出を求められる。勝手に引き出していると分かれば、警察に摘発されてしまうし、業界のブラックリストに載ってしまう。預金通帳のダミーを作ってくれるところがあるらしいが、コストはかかるし、伝手もない。
他にも似たような後見人のケースを2件取り扱ってみた。結局、どちらも、大きな収入にはならなかった。残った爺さん婆さんの処理に苦労させられただけだった。老人の自宅から持ち出した遺留品は、うずたかく、ネコネコハウスの内部に積み上げられた。では、爺さん、婆さんそのものは?寿命が来れば、人は死ぬ。死ねば、成年後見人の役割は終わり、役所による管理監督もなくなる。盗んだ資産は、もはや追及されない。つまり、少しばかり、死期を早める術を使って、3人とも黄泉の国にお送りしたのだ。その3人の遺留品の山を、ネコネコハウスを訪れた第三者に見とがめられたのは、猫角姉妹の大きな失敗であった。(続く)
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