あれは休み時間だったのだろうか。いや、周りに誰もいなかったのだからきっと放課後だったのだろう。小学校の裏にはなぜか藪があった。僕は彼女を中へ誘う。藪の中に何か特別なものがある訳ではない。僕に下心がある訳でもない。あの頃の無知な僕は下心なんかと縁がなかった。僕はただ彼女の手を引く。別に悪いことじゃない。だって彼女だって乗り気だったに違いない。僕にはそう見えた。僕は興奮していた。草が音を吸ってとても静かだ。僕は振り返って彼女と顔を見合わせる。小さな二人は背丈の倍はある草に囲まれてニヤニヤし合った。いや、そう思っていたのは僕だけだったのかもしれない。彼女は幼稚な僕に付き合ってくれていただけかもしれない。今思えば不思議だ。僕らは二人の関係に名前をつける前に走っていたのだから。
もう十年が過ぎた。僕は彼女が今どうしているのか知らない。そして彼女もまた、僕のことなど忘れているだろう。どうでもいいけれど覚えてる、あのこと。
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