不良

北橋 勇輝

小説

6,477文字

俺が不良に憧れたきっかけとか別にそんなん全然、大したことじゃないで? え? そんなに聞きたいん? じゃあ、ええけど。まあ、俺が中学生ん時に不良が主人公の漫画を読んで、それで憧れてん。いや、だから大したことじゃないって言ったやん。それで俺は中学生の時は真面目なキャラでいっとったから、高校入学を機に不良デビューしてん。とりあえず俺は不良っぽい奴と仲良くなることに成功した。名前は羽山幸助って言うねんけど目が蛇みたいに鋭くて、体が壁のようにでかいねん。壁っていうのは、ちょっと言い過ぎたかな。まあ、ええわ。とにかく「幸助」ってお互い下の名前で呼び合うくらい仲良くなってん。それから俺は不良に一歩でも近付くため、煙草を吸い始めた。そしてピアスを付けて金髪に。それからポケットに両手を突っ込みながら歩く。これさえ出来たら、もう不良の形にはなってた。

学校の帰り幸助と一緒に帰っとったら中間テストの話になってん。

「お前、勉強してる?」

「まったくやってへん」

幸助は難しいこと考えてるような表情で、

「ふうん」って言ってん。

俺はその表情を見た後、前を歩く自分の脚に視線を移して、

「俺たちの学校、アホやから休まず行っとけば進級出来るもんな」

「まあな。先輩、言っとったもんな」って幸助は俺の目を見ながら歯を見せた。さっきの表情が演技みたいやったな。

すると幸助が、

「おい、前見ろ」と警戒するような口調で言ったから前を見てみると、俺等が通う学校と近い場所にある蓬山高校の制服を着た男子生徒が三人、前から歩いて来てん。

「あいつら蓬山の奴ちゃうか?」

「あの制服は絶対、そうやな」

俺は生まれつき持っている特殊能力のように男子生徒三人の顔を素早く見てん。全員、不良のような顔付きやったな。

俺はとりあえず三人の内の一人にガンを飛ばした。すると、そいつは俺とすれ違った瞬間、嘲笑いやがった。俺はここで幸助を含め周りの奴等に本物の不良だということを見せつける良い機会だと思い、すれ違ったそいつに、

「ちょっと待てや!」と出来るだけ大きな声を出した。そしたら三人は驚きながら振り返って、

「え? 自分ら何もしてませんけど?」みたいな顔しやがったから俺はキレて、

「さっき俺の顔見て笑ったやろ」

そう言っても、まだアホみたいにポカンとしてるし、マジでイラつくわ、なんやねんと思って、横見たら幸助までポカンとしてんねん。なんか俺、一人だけキレてて浮いてる。これもあいつのせいや。

「お前や! お前!」

俺はもっと大きな声を出して、嘲笑いやがったあいつに指を差したんや。

「え? ぼ、僕ですか?」

あん時の声、めっちゃびくびくしてて、不良のような顔付きやけど臆病かよって思ったわ。ははっ、情けない。

そしたら幸助が前に出てあいつに、

「お前ほんまこいつのこと笑ったんか?」って答え次第では、怒り爆発のようなことを聞いてん。

「わ、わ、笑って、てす」

「え? なんて?」

「おわ、笑って、ないっちゅす」

「は? 笑ってない?」

「は、あは、あは、あはいっ」

すると、あいつの後ろでずっと黙ってた二人の生徒の内の一人がフライングをするようにばばっと飛び出して来て、

「あのほんと、すいませんでした」って言って俺等の前からダッシュでどっか行ってん。

「なんやねん。あいつマジでムカついたわ。殴っといたらよかった」

「あはは。やめとけやめとけ。殴ったら停学やぞ? あそこは殴らんで正解やったわ」

「そうかなあ」

「うん。ていうか、優子たちもう授業終わったってメール来てんで」

「じゃあ、今から行こうぜ」

俺は沙織と。幸助は優子と付き合ってんねんってこれ前にも話した? ああ、話してないか。えっと、沙織と優子は同じ女子高の生徒で仲が良いねん。俺たちが沙織らと知り合ったのは出会い系の掲示板サイト。沙織が掲示板に「今から遊んでくれる人おらん? おったら遊ぼ」みたいな内容で書き込みしてるん俺が見つけてん。そしたら沙織の住んでる場所が俺の家とめっちゃ近かったから、すぐに返信して一時間後くらいに二人で待ち合わせして、遊んでん。そっから何回か遊ぶようになって俺たちは付き合った。幸助と優子が付き合った話? ああ、俺と沙織が一緒にデートしたって話を学校で幸助にしてん。そしたら幸助が「俺も彼女欲しい。紹介してや」って言うから仕方なく俺が「友達が女の子一人、紹介してほしいって言ってんねんけど、お願い出来るかな」って沙織に電話で頼んでん。そしたら沙織、承諾してくれてダブルデートの計画を立ててくれたんや。それでダブルデートの当日に来たのが優子。その後、幸助と優子は仲良くなって付き合ってん。

それで話、戻るけど俺たちが女子高に行ったら、制服姿の沙織と優子が校門前におってん。

校門からぞろぞろ出てくる女子高生はみんな俺たちのこと見てたわ。まあ俺、金髪やから目立つんやろな。それで俺たちはマクドに行ってポテトとか色々、注文した後、テーブル席に着いた。

「あー、今日の体育、マジでしんどかってんけど」

沙織はポテトを次々と口の中に放り込んでんねんけど、そんな姿って普通、あんまり可愛くないと思うやろ? ところが沙織がそんな姿やっても、めっちゃ可愛いねん。

「体育なにやったん?」って俺が聞いたら、

「サッカー」って沙織の隣にいる優子がアイフォンいじりながら答えてん。

「私のとこにボール来たからな、近いところにおった優子にパス出してん。けど、すぐに優子、私のとこにパス出してきてん。それで前見たら相手めっちゃおってん! 何でまた私にパス出したのよ優子ー」

「だって、どうすればいいんか分からんもおん」

「困ったら、とりあえずボール蹴ればええねん」って幸助は言った後、もう空になってるコーラをなぜかまだストローで吸い続けて、ズコズコズコズコ鳴って、鬱陶しいなあと思ってたら、

「ちょっと幸助、さっきからシュコシュコシュコシュコうるさい。それ止めて」ってアイフォンから目を離した優子がイラつきながら言ってんけど、そん時の優子の目がマジで怖かった。幸助も怖いと思ったんやろうな、ストローで吸うの飼い主に躾されてる子犬のようにぴたって止めて、優子に向かって小声で「ごめん」って謝ってたわ。

店内、高校生で混んできたなーと思ってたら沙織と同じ女子高の制服を着た女子高生三人組が俺等の近くの席に座ってんけど、その内の女子がめっちゃ可愛かってん。いや、沙織には悪いと思ってたよ? けど男はこんな時、見てまうやろ? それで俺、その女子高生見ながら「うわあ。やばいなあ。めっちゃ可愛いなあ。沙織と良い勝負やなあ」と思ってたら、めっちゃ視線、感じんねん。俺、恐る恐るその視線を忍び足で近付くように辿って行ったら、沙織がめちゃくちゃ俺のこと睨んでたわ。沙織なんか言ってくるんかなーと思って、ちょっと待ってみたけど、俺のこと睨んだまま、ずっと黙ってんねん。目のやり場に困って幸助の方を見たけど、俺の知らん話題で優子と楽しそうに喋ってて、俺の顛末をまったく知らん。

その日の夜、地上波でボクシング中継やってたの見たし、そろそろ寝ようかなと思ってたら、机の上に置かれた俺のアイフォンが怯えるように震えだしてん。

「誰やねん。こんな時間に」って、ちょっとイラついたら沙織からの通話。咄嗟に俺は、

「あー、女子高生見てたことで電話してきたんやろなあ。うわあ。寝る前に怒られるってほんま最悪やわあ。このまま電話、出んといたろかな」とか思ったけど、さすがにそれはマズいので電話に出ると聞き覚えのある沙織の声。

「私が電話してきた理由、分かるよな?」

「うん」

「分かるんやったら自分から電話掛けてこいや。なんで私から電話掛けてんねんボケ」

「ご、ごめん」

「ほんまはもっと早い時間に私に電話掛けてきて謝るんが普通やろ? ふざけんなよ、マジで。高校で不良デビューしたクソが」

俺はその瞬間、自分のプライドを傷つけられたから言い返してん。

「沙織、それはほんまに申し訳ないと思ってるよ? けど、それはちょっと言い過ぎなんちゃうんか?」

「は? 今のは聞いてなかったことにしてもええで?」

「はい。お願いします」

 

 

地上波でボクシング中継をやった翌日の不良には注意したほうがいい。必ず教室かどこかでシャドーボクシングしてるからな。

俺もその日、教室の後ろで幸助とボクシングごっこしてたら、同じクラスの布川が教室に入って来てん。

「おおー、布川。めっちゃ良いタイミングやなあ」

布川ってやつは体が細くて死人のような顔をしてる男子な。

「な、ななな、なんですか?」

「俺等と一緒にボクシングしようぜえ」って言いながら幸助はシャドーボクシングを布川に見せつけているが、パンチを出す時に口からシュッという音を出すのが鬱陶しい。プロなら許せるが素人のお前がやるな。すげえムカつく。

「ぼぼぼ、僕はいいです。え、遠慮しときます」

「遠慮しなくていいって。ほら、こっち来いよ」って幸助が布川の肩に腕を回して俺の所まで連れて来て、幸助と布川がボクシングをし始めてん。

「おらっ。おらっ」

幸助がパンチを繰り出しながら布川を教室の隅に追いやってんけど、そこで布川の左ボディが炸裂。その瞬間、幸助の口から「うあごっ」っていう言葉が出た。

幸助はちょっと前屈みになって、

「ちょ、ちょい待って布川。なんか腹、痛くなってきたわ」

「え? ほ、本当ですか? よ、良かった。早くトイレ行ってください」

「う、うん」

幸助はダッシュでトイレまで走って行ってんけど、そん時に見た幸助の顔、すげえ青ざめてたわ。

結局、その日、幸助は三時限目の休み時間に早退してしまってん。俺もあん時、布川とボクシングごっこしてたら、幸助と一緒に早退してしまってたやろなあ。

それでその後の授業中、布川に無理矢理ボクシングやらせたこと、なんか悪くなってきて放課後、謝っとこうと思ってん。それで放課後、布川の席まで行って、

「布川、今日ボクシング無理矢理やらせて、ごめんな? どっか怪我とかしてない?」

「え、だっ、大丈夫でっすっ。おそ、そ、それより幸助くんのことがっ」

「え? ああ、幸助なら大丈夫や。明日には元気になってるやろ」

それで俺と布川は部活やってないから、一緒に帰ることになってん。

布川の家が丁度、学校のグラウンドの裏の所にあるから俺もたまにはそっちから帰ろうと思って歩いてたら、グラウンドの方から野球部が声出して練習してる声が聞こえてきたんや。その瞬間、あー、何か必死に打ち込めるものがあっていいなーって思ってん。そしたら野球部員が練習してる姿を見つめながら「ぼ、僕、ボクシング習ってるんです」って恥ずかしそうに布川が言ったから、

「え? マジで? だからあんなに強かったんやなあ。初めて何年ぐらい経つん?」

「い、一年です。僕、中学生の時、その、いじめられてたから、だからボクシング習い始めたんです」

言おうか迷ったけど布川になら別にええかあと思って、

「俺も実は中学生の時、不良にいじめられててん」って、雑巾絞るように勇気出して言った。

「えっ、ほ、本当ですか? 凄い意外です」

「うん。だから俺も高校入学を機に不良になったんや。けど今日、幸助が布川に無理矢理ボクシングさせてるとこ見て、なんか違うなあと思ってん」

「違う?」

「えーっと、その、俺が目指してる不良とは違うってこと。俺が目指してる不良は正義感が強い不良。漫画の主人公みたいなそんな不良やねん。けど、あん時の俺と幸助は悪い不良や。俺が中学生の時、いじめてた不良と一緒の不良や。そんなん嫌や。だから俺、今から良い不良になるわ」

「え? ちょ、ちょっと待ってください。良い不良ではなくて、良い人でいいんじゃないんですか? 不良にならないといけないんですか?」

「うん。ちょっと不良は外されへんな」

「そ、そうなんですか」

「うん」

俺は晩御飯を食べ終わった後、幸助に電話を掛けた。

「もしもし? 幸助? お前、大丈夫か?」

「あ、ああ。うん。大丈夫」

「俺等、これから良い不良になろうぜ」

「良い不良? どういうこと?」

「お前が布川に無理矢理ボクシングやらせてんの見てて思ってん。いじめるのはよくないわ。これからは弱い者を守る不良になろう」

「う、うん。まあ、なんとなく分かった」

「じゃあ俺、これから沙織と会う約束してるから。ばいばい」

「うん。ばいばい」

「あっ、お前、明日、学校来るよな?」

「うん。行くよ」

「じゃあ布川に謝っとけよ。俺は今日、謝っといたから」

「うん」

今日の放課後、布川と別れた直前に沙織から電話掛かってきてん。またあの続きかなあと思って出たら、

「今日の夜、九時に個性公園に集合ね」って言われて、そのまま切られてん。「なんか嫌な予感するなあ」って思いながら個性公園、目指してチャリ漕いでてんけど、俺の予感は的中や。

「どうしたん? 急に」って言おうとしたら沙織の周りに俺の知らん男たちがおんねん。大体、何人ぐらいやったやろうなあ。確か俺と同い年くらいの男が三人ぐらいおった気がする。

「沙織?」

「今日であんたとは別れる。私、今この人と付き合ってんねん」って言って沙織は隣におった一人の男の肩に力が入らんみたいにだるそうに腕を回しる。

「な、なんでや。沙織。まだ俺が女子高生見てたこと怒ってるんか?」

「怒ってるよ!」

「ご、ごめんって。だからやり直そう?」

「あんたが女子高生見つめてるん見た時から私はあんたのこと好きじゃなくなってん」

「う、嘘やろ? な、なあ?」

「嘘ちゃう。ほんまや」そう言って沙織は周りにいた男たちに俺を殴るよう命令してん。

その暴行は十分ぐらい続いたんかな。俺は囲まれてたから逃げることも出来ず、必死にその痛みを我慢し続けてん。我慢し続けながら男たちの体の隙間から沙織の顔が見えてランプのように輝くのが分かった。俺はその光を見つめながら、この暴力を止めてもらうために何か言おうとするねんけど、体のあちこち殴られたり蹴られたりしとるから、言葉なんて出すこと出来ひんねん。

気が付くと俺は個性公園の冷たい地面に倒れてたわ。その時の土の匂いが未だに忘れられへん。なんやろ。その匂いを嗅いだ時、小さい頃、土で団子を作った時のこと思い出してん。その瞬間、俺の目から温かい涙が流れて、その冷たい土に落ちてん。

俺は立ち上がろうとしてんけど、体の色んなところがめっちゃ痛い。それでも俺、我慢して自転車を漕いで、なんとか自分の家に帰った。

泥だらけの格好、誰にも見せられへんから玄関のドア開けた瞬間、すぐに風呂場に向かったわ。

それから二週間が過ぎてんけど、優子によると沙織は学校に来てへん。沙織が学校に来なくなったのは、あの事件が起きた翌日や。けど、幸助と優子はあの事件のことをまったく知らん。

俺は幸助と優子に沙織と別れたことを伝えた。

「俺、沙織と別れたわ」

「え?」

二人は少し間を置いた後、

「何が原因なん?」って幸助が聞いてきた。

「知らん。一方的に別れを告げられた」

「そっか。けど沙織、もう少し経ったら学校行くって、さっきメールきた」

「うん」俺がそう言ったら幸助は、

「まあ元気出せよ。俺がなんか奢ったるわ」

それ以来、俺と幸助と優子は遊ぶのを止めてん。なんか幸助と優子付き合ってるから、居づらいねんな。三人で遊んでる時、邪魔してるよなって思っちゃって。幸助にそれ打ち明けたら、

「うん。確かに。そうかもしれん」って、めっちゃ言いにくそうに言われて。その瞬間、俺、幸助めっちゃ正直やなー。友達より恋人取っちゃうんやなあ。あー、別にそれ悪いことではないと思うけど、なんていうか悲しかったなあ。それで放課後、俺はまっすぐ家に帰るようになって、幸助と優子は二人で遊んでる。それでなんか幸助と優子とたまに目が合った時、めっちゃ気まずくて、今ではまったく会話してへん。その代わり布川と二人で遊ぶようになったな。もちろん今でも野球部員が練習してる声、聞きながら帰ってるよ。なんていうか、その声、聞いてると俺も頑張ろうって思うねん。

あの声には俺が持ってないものを持ってるから。

2013年9月26日公開

© 2013 北橋 勇輝

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