エイゴイの猫。

巣居けけ

小説

2,404文字

どうして猫なんだ! どうして山羊ではないんだ! どうして、お前だけが猫に成り果てることができたんだ……。私も伸縮自在な猫になりたい。

「次々と嫌いな物が増えていくよお!」

まるで理科のように括弧を削る少年。果実のふりをした商店街。園の中のシャッターが、団地と廊下の色彩スペードを抱えてやって来る。女は提灯に水を差す。おれは一つのアルミで缶を作る。商店街が林檎を身体に宿すと、隣人たちが猫に変化して数式を解く。「空から一円が降って来るよ」おれは少年時代をテスト用紙に書き殴ることを続ける。キツツキの遺体で空を飛ぶ……。
「生まれたんです。顔面」
「でも、お札の隙間の泥だけが、酸素を作っているとは思えません」産婦人科の職員が札束で母親を作る。胎芽を餡かけにした駅長。「あいつは特殊なシャウトを使うんだ」シンガーソングライターが使う予定のマイクに唾液を張り付けるだけの仕事。
「毛布の近くで、猫がシャウトしてる……」高速で動く駅長の破片。弾丸を嫁に迎え入れる家庭にストーカーが輸送される。目撃を告げる社会人もすでに猫。アスパラガスの産婦人科が、猫……。
「僕は昔ながらのお店に出向いた」コック帽を被ったおれが鏡に居る……。「次々と嫌いな物が増えていくよお!」

まるで国語と社会のように狐のしっぽを、中年の消しゴムで削る美少年。父親のふりをしたガールフレンド。携帯電話の中の顔写真がししゃもに変わる。シャッターで両断された猫が、ビールジョッキを抱えて夜這いを続ける。女は提灯に水を差す。教育者は鼻水で提灯を作る。おれは一つのアルミで缶を作る。商店街が林檎を身体に宿す。「空から三円札が降って来るよ」数学教師が解いている。おれは青年時代をテスト用紙に書き殴ることを続ける。休肝日の遺跡で日数を飛ぶ……。
「生まれたんです。奇形」
「でも、御礼の隙間の灰だけが、熱湯を娶っているとは思えません」産婦人科の老人が水分で父親を作る。胎芽を餡かけにした駅長。「あいつは特殊なシャウトを使うんだ」猫が使う予定のマイクに精液と脳を張り付けるだけの趣味。
「毛布の近くで、猫がシャウトしてる……私は、おれの中で流れ去る……」高速で動く駅長の脳の破片。じゃがいもの形を成した臓物の連鎖。弾丸を嫁に迎え入れる家庭に、彼らの家計は血を流す。

ストーカーが輸送されてくる。目撃を告げる銃撃者の失敗した料理が届く。アスパラガスの産婦人科はすでに猫になっていて、隣人のように数式を生み出す……。
「おれは月に出向いたことがある」兎のシチューで山羊を作る。おれはモノづくり大学で乱射を行ったことがある。かつての重火器で、錆びた六角レンチを女教授の眼窩に刺したことがある。弾倉を失った足の近くには、やはりアスパラガスのサンプルと、通常の産婦人科によるメスの調節器具が落ちていた。おれは自分の眼球が惑星としての機能を失ったことを理解すると、山羊の毛で作られたメスを女に投げる。
「なんだと? 君は学長室にまで出向いて、何を言いたいと?」
「へえ、それが、これなんです」青い資料を渡す。
「んん? なんだって? 『道に落ちている空き缶を、僕は必ず拾い上げたい』だと?」

密閉された地下室。惚気話と平行して進められる講義。三時に到達したので、フレンチトーストのおれはイヤホンから大根を抜きとる動作のクリック音を使い、一度の射精を行う。文字が続く書物で焚火をこなし、朝か卵と見間違うほどの日光で湯舟を連想する。何にも染まらない湯舟に唾液を溜めて、大学のような寝室に腰を下ろす。「おれのストーカーはおれの怠惰を無効にしてくれる」ストーカーにすら薬物を与えるイエスマンが、路地でたむろしている……。
「太鼓を鳴らせよ」

二本の鍵が必要な扉を前にした研究員は、いつかの日曜日に目撃した猫の臓器で腹を満たす。彼にとっては薬物が母親であり、ワインのような錠剤。「これで命が救われる」彼がそれを口ずさんむ時、二日後には猫が十匹以上死んでいる。学長は職権を駆使して彼の脳を猫に変換する。しかし彼は、生粋の同族食らいを仕留めるシャープペンシル……。

両端の鼓膜を心臓の中で感じながら、砂時計の落下速度を計算する。彼の中の数学脳はすでに猫で、キャットフードを受け付けない身体からは分離されている。彼は自分の脳を自分の猫の目で見ることができる。どうしようもないほどのしわくちゃ脳で数式を咀嚼し続ける……。彼は猫の仲間を食らう時にのみ射精を行う。その時にだけフレンチトーストの過去を思い出す。

こめかみをひっきりなしに抑え込む。アサルトライフルを持った、偉そうな警備員が、脳の入った瓶の硝子に映る。後ろには誰も居ない。何も無い。自分の役割を果たそうと、猫は研究員に近づく。

研究員の、曲げられた腕。猫を駆使した居酒屋の園。開脚された脊髄の水分と、ブロックのような背骨が五十のトマトとして落ちていく。青い書類を紫に変えて、学長室を猫にする。学長のはげは、すぐに砂時計のような吸引力で明日へと飛んでいく。猫はロケットに憧れる傾向にある。

それから彼の肘から伸びた長尺のひじきに、かかりつけ医のような防弾チョッキや、猫のようなタクティカルベストを装填する。彼は自分の腕に鼠を置いていた時期がある。街中でライターを購入する際に、共についてきた鼠を今だけ自由の身にしてみせる。監獄のひびに消えていく鼠。血の香りがするトマトを咀嚼して書類に吐き出す鼠の尻。

貫かれ、焼かれ、押しつぶされた鼠の臭い。簡単に焦点が眼窩の中に引っ込んで自分の糞で作られたベッドの上に倒れる鼠。研究員は病み上がりの偏頭痛持ち受付係のような顔で階段を降りて、ついに猫に成り果てる。体だけが、十年前のエレベーターを使用していると感じている……。彼らの細胞が薬莢に変化する……。身体が十年前のキャットフードを欲している……。研究員は、自分の最高の宝玉を見出した時のような顔をしている。密閉された地下室……。惚気話と平行して進められている講義の音とチョークのクリック音。どんぶりのような、猫の鳴き声……。

2022年2月1日公開

© 2022 巣居けけ

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