「おいしい」
彼女がつくってくれた年こし宮古そばを食べて俺は言う。彼女の手料理は本当においしい。
テレビに視線をむける。Eテレ2355。
ニューイヤーまであと十秒。その瞬間をおさめようとテレビにむかい彼女がスマホをかまえる。
二○二二年をむかえたそのとき、トラがこちらにむかい走ってくる映像がながれる。それをみた俺と彼女は小首をかしげる。トラは殺気をおびている。新年早々おだやかではない。なぜトラの映像が?
「あ、寅年か」
俺がそう言うと彼女はふたたびスマホをテレビにむける。どうやら彼女は画面に映ったトラをみて動画を停止させたらしい。はつわらい。で、初詣でに行こうとノリで決める(新年早々おだやかではない)。
自宅から波上宮という神社まで歩いて十五分。とちゅうコンビニで彼女にチャミスルをおごってもらう。信号待ちで乾杯。有意義な赤信号の時間。そして信号が青にかわる。われわれ〈チーム暴徒〉はチャミスル片手に軽い足どりで波上宮をめざす。
波上宮に着く。チーム暴徒はわき道に避難する。人がおおすぎる。初詣で中止がノリで決まる。秒で合意にいたる。でもまあせっかくだからと隣接する波の上ビーチへ行くことにする。
波の上ビーチに着く。意外にも人がすくない。ほっと胸をなでおろす。俺と彼女は砂浜のうしろの長いベンチに腰をおろす。たばこを吸う。
波の上ビーチの魅力はふたつ。灰皿が設置されているところと野良猫がいっぱいいるところ。それだけ。あとは皆無。目のまえに広がる海を「オキナワの海」だと紹介するのははなはだ抵抗がある。
彼女が撮ったリシャの写真や動画をみながらたばこを吸いチャミスルをのむ(あとm&m’sをつまんだ)。俺らは波の上ビーチに一時間くらいいたと思う。
体が冷えてきた。俺は彼女にこう言って腰をあげる。
「屋台で焼きそば買って帰ろう」
立ちあがったそのいきおいで俺は防波堤の落がきをスマホで撮る。根拠はないがこの落がきを待ち受け画面に設定したら二○二二年は不幸になるだろうなと直感的にそう思う。ハッピーニューイヤー。
"暴徒の二人男女、もちろん猫も。その3"へのコメント 0件