やれやれ、また今日もウサギ鍋か。
男は罠を設置したところをいつものように巡回してそう呟いた。広い山の中を歩き回るのには慣れているとはいえ、猟銃を背負っている男にとって山歩きはそれなりに腹の減るものである。その空腹の前には目の前にあるウサギはいかにも頼りなさげに見え、男は腹をさすりながらじっと地面を見つめて動かなかった。
小屋に明かりをつけると、殺風景な部屋の中がよく見えた。テーブルとベッドと簡易な棚の他には何もなかった。男はおもむろに台所へ向かい、既に息絶えているウサギの解体に取り掛かった。冬が近づきつつある現在、ウサギの毛は夏よりもふさふさしていて触り心地が良かった。包丁を軽く入れて皮をはぎ、それから手際よく内臓を取った後、てきぱきとした手つきでウサギをただの肉塊へと変えていく。慣れたものだった。それから山歩きの途中で集めた山菜を鍋に放り込み、ウサギ肉と一緒に煮て味付けをする。いつものウサギ鍋がそこにはあった。
一人で黙々と食べながら男は隣に立てかけてある猟銃をなでる。今日もチャンスがないわけではなかった。イノシシを仕留めるチャンスをいつものように無駄にしてしまったのだ。男はお世辞にも猟銃の扱いがうまいとは言えなかった。いままで猟銃で仕留められた数は数えるほどしかない。それでも猟師をやっているのは惰性としか言いようがない。同じく猟師である親から貰ったこの猟銃を片手に山で生活をしていく方が、新しい世界に飛び込むよりも男には楽に思えただけだ。罠にかかる獲物と山菜と、行商から交換で手に入れる米があれば一応食っていける。
男は座りながら猟銃を構え、バンと口で言いながら獲物を仕留める想像をしてみた。久しく感じていない手ごたえを想像するのは難しかった。苦笑しながら男は猟銃を取り下げた。
いつまでも同じ日々が続くのだろうか。自分の生に何の意味があるのだろうか。こんなことを考えながら男はベッドに横になっていた。
——救われたい——
こんな思いが男の脳裏をかすめたが、毎日の疲れは男を夢のない眠りへと落とし込んでいった。
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