<誰が罠を仕掛けたか>
最終試験に罠が仕掛けられ、受験生がパニックに陥る、で思い出すのは私の世代なら萩尾望都の『11人いる!』だろう。そのひそみに倣えば犯人は「会社」ということになる。罠は二種類あった。
①グループディスカッションをすると見せかけて、「協議により一人だけ推薦させる」
②選考に残った六名全員の過去の悪事の告発状
①だけでも十分に卑劣で企業イメージが地に堕ちる所業ではある。とは言え、②まで会社が関与していたとは考えにくい。②は久賀が犯人だと自供しており、スピラリンクス社の人事部鴻上がそこに関与していたようには見えない。しかし共犯者がいた可能性もある。
・飲み会の席で久賀が森久保に4月20日のスケジュールを尋ねており、すでに陰謀が開始されている。
・九賀と波多野の連れション(ここの記述がないのはなぜだろう)や波多野と矢代との会話で波多野の嶌への恋心がばれており、選考方式が変更になる前から告発状は用意されていたことになる。
・「飲めない」と公言していた嶌に対し、矢代がわざわざ専用のデキャンタを用意している。
久賀と矢代は共犯者ではないだろうか。
<嶌伊織という人物>
波多野の目から描かれた嶌と、後半一人称で登場する嶌はまるっきり別人に思える。最終試験の二時間半の出来事のショックで人間不信に陥ったと語っているが、彼女はもともとそういう気質だったと思う。どうもこの人物は自分に都合の悪いこと、嫌なことは忘却、あるいは記憶から消し去る特技があるように見える。さもなければ正当化して自分の都合の良いように処理している。すべては「正しい人間であるため」だ。
告発状の中身は彼女自身の記憶から消えている、あるいは正当化して悪事とは考えていないことで、キーワードは「酒」、「薬物」、「兄」だと思う。相楽ハルキへの異常なこだわりが何かをサジェストしている。相楽ハルキは障害を持つ妹と上京して同居したと言う。相楽ハルキの妹とは彼女自身のことで、兄の薬物使用を告発したのではないだろうか。障害とは軽い精神障害だろう。ジャスミンティーには鎮静作用があるが、愛飲と言うよりは精神の安定には必要不可欠なものだったのだろう。
下戸のふりをしているけれど本当は飲める。服薬が必要だったので酒が飲めないというのが真相だろう。それを矢代は(なぜか森久保も)知っていた。彼女専用のデキャンタを用意して、体育会系の一気飲み押し付けから嶌を守ったのだと思う。もしかしたらソフトドリンクだと偽って弱い酒を飲ませて嶌の弱みをこっそりと聞き出したのかもしれない。ここで思い出すのは『エデンの東』に登場するキャシーという女だ。正真正銘のサイコパスで目的達成のためなら実の両親まで手にかける。しかしなぜか酒を飲むと本心を語り出すという弱点がある。他人の評価が非常に低いこともサイコパス的気質の持ち主であることをうかがわせている。波多野と二人になった夜、月を見て泣いたのは兄を思い出したからだろうか。
<学生たちの相関関係>
袴田⇒矢代が好き
森久保⇒嶌が好き
波多野⇒嶌が好き
嶌⇒九賀が好き
九賀⇒矢代とできている
矢代⇒九賀とできている
<波多野祥吾が残したもの>
短い手紙と鍵付きZIPファイルと、小さな鍵。
ZIPファイルを解凍すると物語前半の彼自身の手記が入っていて、鍵はカバンのもので中身は嶌の告発状だろう。あるいは貸し倉庫のカギか?
<結論>
物語はこの後、告発状を恐れる嶌伊織の精神崩壊が描かれる。同時に久賀と矢代の本当の関係も暴露される。波多野が残したZIPファイルのパスワードはもちろんジャスミンティー。ZIPファイルの中身は物語前半の彼自身の手記で、鍵はカバンのもので中に嶌の告発状が入っている。
<解けなかった問題>
・犯行に使ったコインロッカーと波多野が借りていた貸倉庫は何か関係があるか?
・妹の芳恵の役割は?
・飲み会での森久保が嶌に言った言葉の意味「飲まないんだろう。俺のせいなんだから、俺のために無茶はするな」
・暴かれなかった波多野の悪事とは何か?
"正しい人"へのコメント 0件