「『何で俺だけ死ぬんだ! 全員死ねばいいんだ!』って、ガキみたいな男の『イヌ』として死ぬわけ? そのために今まで厳しい訓練を……」
「なぜ長話をする? お前は父親の復讐をしに来たんだろう? ならば、さっさと我々と戦えばいい」
「アンタ達に絶望しながら死んでほしいの。疚しいこと。後ろめたいこと。他人に覗かれたくない胸の内。ワタシは全てお見通し。それらを曝け出す。直視させる。その上で死んでほしいの。ワタシの家族は、ただ死んだんじゃない。絶望しながら命を絶つしかなかった。アンタ達には、屈辱まみれで死んでほしい」
佐々木が黙って、片手を先程のように上げた。
ただし、指を二本立てている。
「戦闘準備」の合図。
「佐々木一馬。防衛大学校を首席で入学・卒業。幹部レンジャー課程修了。PKOの警備要員として、イラクに派遣される。弟・勇も自衛官。同じくPKOで、イラクに派遣された。勇は、施設科所属よね。長い内戦で、ボロボロになったイラク。勇は、その復興を強く決意していた」
佐々木から無表情の仮面が剥げ落ちた。
顔が苦しそうに歪む。
「悲劇は、突然起きた。地元民の医療・商業ルート確保のためのトンネルを建設中、反政府ゲリラが仕掛けた地雷で、勇が殉職。日本政府は焦った。PKOを軍隊化・憲法改正の呼び水とした計画が頓挫してしまう。政府はこう見解した――『地雷撤去中の事故。隊員個人の不注意』。アンタは上官に異議を唱えた。防衛省幹部にも。結果は、黙殺。事実を知るアンタは、政府にとって厄介な存在。北海道のレーダー基地に左遷が決定。そして除隊した――自衛隊とこの国に絶望して。この国に復讐を誓って」
顔が歪み過ぎて、佐々木の顔は原型を留めていない。
他の「聖戦士」の過去を口にする暇はなさそうだ。
佐々木が殺意を超えて、狂気のステージに入ったから。
今にもワタシを破壊しそう。
けれど、ワタシは続ける。
「過去に、部下が何人も入会していた天慈会に入会。大量の自衛隊員引き抜きの行き着く先が、大規模破壊なのは明らか。だから、アンタも入会した。この国に復讐するために。弟・勇の敵をとるために」
「攻撃開始!」
佐々木が吠えた。
怒気と殺意が籠った咆哮。
ワタシは姿を消した。
驚愕する聖戦士達。
一人の股間を蹴り上げ、もう一人に目潰しを見舞い、さらにもう一人の鳩尾を殴る。
サブマシンガンを撃てる程度に痛めつける。
目潰しをくらった隊員は錯乱状態。
その隊員がサブマシンガンを構える。
このタイミング!
「やめろ! 撃つ……」
佐々木の制止は遅かった。
ワタシのステルスが、ただ透明化する代物でないことを佐々木は知っているようだ。
なら、部下達にも教えておくべきだった。
もう手遅れだけど。
目を潰された聖戦士が乱射する。
誤射――同士討ち。
その聖戦士を殺して被害を最小限に食い止めようと、他の聖戦士達も撃ちまくった。
乱れ飛ぶ銃弾。
吹き上がる血飛沫。
壮絶な同士討ち。
ワタシの体を何十発もの弾丸がすり抜けていく。
佐々木だけが、床に伏せた。
銃声が止んだ。
立ち込める硝煙。
濃厚な血の臭い。
散乱する肉片。
そして、静寂。
佐々木がゆっくり立ち上がる。
死んだ部下達は眼中に無いようだ。
ワタシの存在を捉えようと、五感を研ぎ澄ませている。
後ろから佐々木の右腕を切りつけた。
腕は皮一枚で肩にくっついている。
サブマシンガンのトリガーを握ったまま、宙ぶらりん。
敗北を悟った佐々木を何度も切りつけた。
あの日、メスで切り刻みたいという願いは叶った。
佐々木が仰向けに倒れた。
その全身を朱色に染めて。
さて、次は元締めを始末する番だ。
樹光の部屋に入ろうとした。
瞬間、左脚ふくらはぎに激痛が走った。
サバイバルナイフが深々と突き刺さっていた。
倒れたままの佐々木に、刺された。
息も絶え絶えの彼に。
ワタシは、ふくらはぎからナイフを無造作に抜いた。
激痛を感じていることは、一切顔に出さない。
「ゴキブリより、しぶとい」
冷たく言い放ってやった。
無念の目でワタシを見上げる、血まみれの佐々木。
ワタシはナイフを佐々木に返した。
彼の喉に。
あっちで勇と兄弟愛を温め直してね。
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