1
彼女が彼女ではない時
彼女のカエルが自分のひじの中で
エクレアのように眠っている時
秒針が時間を刺し殺して
フォークで台所を耕している時
ねじれた階段が自分の後ろ髪を
辞書の背表紙に朗読させている時
コウノトリが重力を水割りにして
昨日の剥製を眺めている時
パイプ椅子に廊下を食わせながら
まだ開いたことのない扉の中でセミが死んでいる時
日本じゅうの月曜日から悲鳴が上がり
へその裏の眼球がピンセットの速度で消化されている時
がらんとした広場で聴衆の表情の残像が
腹膜炎の足湯でかかとを孵化させている時
ちょうどその時
顔のない名前がアスファルトのガムを噛みながら
切腹したカエルを毛糸で縫合してあげた少女は
角砂糖のように溶けてゆくのだった
それはあたかも迷子になった線路が
アコーディオンのように折り曲げられている時
2
前世のパティシエが土砂降りの中で
癌の治り続ける親戚と引っ越す
歯のみがき過ぎが自分の息で
古本屋の中の図書館をゆでる
恒星の底の銀河が通り雨に冷えて
ルビの灰汁をすくい始める
開封済みの論語が正夢の目覚まし時計を
恐竜のように解凍する
鮭の上の鮭が入道雲の肩凝りを
ホッチキスの翻訳家に紹介する
げっぷの中のクジラがアザラシの靴音と
電子レンジの中の歴史を聞く
生まれてすぐに撮影されたギョウニンベンが
呼ばれなかった発明をパンに塗る
大聖堂の沼の底で裏返しの蛇口が
森のろうそくを氷河の中に流し込む
天使のレントゲン写真と地獄の間取りが
彗星の吸い殻と真空の脱臼に張り合う
黒点のまばたきと太陽の遺灰が
喉仏のよだれを暴力の死骸で綴じる
3
碧珠味沁歯
緑亀換色紅
向井底之狼
送瓶葡萄酒
青りんご味の知覚過敏が
ノコノコとパタパタを入れ替えながら
井戸の底のオオカミに
ぶどう酒を届けに行きましたとさ
○ 青 頭 巾 ○
チ カ ク カ ビ ン
ノ → → →→ パ
タ →→ →→→ コ
狼…………………………
↓↓↓ ※井戸※ ↑↑↑
……………………赤ワイン
Checkmate.
(古畑任三郎でした)
4
道に歩かれる足が
ギターの中のセゴビアで
神に祈られるのでした
鏡に見られる顔が
誰もいないサグラダファミリアで
切手に舐められるのでした
布団に眠られる夜が
終電待ちのウユニ塩湖で
駅に並ばれるのでした
椅子に座られるお尻が
金木犀香るマチュピチュで
床に踏まれるのでした
ごはんに食べられる箸が
蛍の舞うピラミッドで
虹に架けられるのでした
海に泳がれる魚が
明石海峡大橋の裏側で
ダンベルに持たれるのでした
草原に走られる馬が
本に読まれる目の中で
ポストを投函するのでした
山に登られる人が
致死量の核シェルターで
風に浴びられるのでした
世界に生きられる私が
風鈴の鳴るジャングルで
キジに撃たれるのでした
5
骨を
といで
炊いて
食べて
出して
流して
拭いて
泣いて
寝て。
焼かれて。
骨を
とがれて
炊かれて
食べられて
出されて
流されて
拭かれて
泣かれて
寝られて。
6
光化学スモッグの陽射しの中で
アムラーのバブリシャスはぷちぷちしていた
靴下の穴からはノストラダムスが覗き
ケーニッヒケルベロスはブロッケンGだった
ハイパーレイダーの赤と黒が
回避1のゴーレムに黄金モモを供えていた
支配の扉の21階に部屋を借りて
マサキの家の上に行きたかった
チョベリバとチョベリグは引っ越して行った
不幸の手紙がローラーブレードにまたがって
ダウジングの棒を持ってうろついていた
くちぱっちのうんちを流した
トカゲのしっぽは出なんだけれど
二重の極みは一瞬できた
ジャンパースカーフとドドの羽には
消費税がかからなかった
ファンタオレンジを買うためだけに旅に出られた
マウンテンバイクのウィリーで
ちゃんとひっくり返れた奴はそう多くない
ちょこちょこ死神の気配がしていた
ミノー・ルアーのジグザグとワームのラメが
立入禁止の貯水池を支配していた
はかいのてっきゅうとボムアップで
たいがいの体罰は倒せた
縁日のひよこは空気穴もむなしく
賢そうなまぶたを閉じた
テレホンカードはよく飛んだ
前を上る靴のかかとが赤く光っていた
鮭フレークかごはんですよか
玄田哲章のシュワちゃんならば?
借りパチだけでほとんどやれた
むろんやられることもあったが
やり合いでみんな金持ちだった
7
母親の産声に起きる。風呂場ではダイオウイカが虹色の銀河の浮かぶ墨を垂れ流している。彼女と海辺にいたら空の彼方に円盤が現れた。どんどん近づいて来て、とうとう降りて来る。そして言われたのは「あなたは二百二十二年のあいだ止まっていたのよ」。隣を見れば彼女はいない。とうの昔に死んだらしい。いつから? 彼方に円盤が見えた頃には? そして私に事実を告げた女性は小学一年の頃の担任に似ていた。果たせるかな、彼女は先生の子孫であった。私からすれば先生の昔だ。我々はホテルで休んだ。二百二十二年は私に無数の落書を施し、そして消し去っていた。私に稼ぎ得る道があるとすれば地下核闘技場のほかになかった。ところがいざ始まればスポーツ科学の進歩は波動拳にまで達していた。勝てそうにないから私は二百二十二年前に戻った。タイムスリップは中学で習った。しかし戻ってみればそこはまだ森の地下の土の中。慌てて出ようとし、力の限り出た私は、あまりに出過ぎて違う星に立っていた。母親の産声が遠くに聞こえる。あそこに行ければ起きられる。肺の中がメロスになるほど走りつつ、空には彗星が凍えて虹色の油を垂れ流している。ネアンデルターるなよと言われ、アウストラロピテクしますと答えた。コップの水をこぼさぬように歩きながら蝋燭の火を消さぬように走った。入れ歯のカバからは相変わらず手紙が届く。よくもまあ燃え尽きなかったものだ。そして嗚呼この紙か。自分の姿に似せて創り給うた土くれは、まだまだ進化論までしか漢字は読めませぬ。星間戦争は丁半で決した。こちらは負けたから無暗に人口が増えるばかりだ。私はクラゲ女といい仲だったがプラトニックも限界だった。私の若さは理性に逃げられ、一か八かで大砲に詰まる、いざ撃て、ズドォン!……「あなたは死んだのですよ」。あの産声はと聞くと、「あれはあなたのお祖母さまのですよ」。手紙はと聞くと、「それは届いています」と言って、入れ歯のカバの筆跡。世界はそれでよろしいが、私は私ですかと聞くと、「さあそれはちょっとどうですか」。それから、突きつけられる。学ぶか働くか戦うか逃げるか。働きますと答えた。乾電池なら単三だ。「それではあちらのビーカーに」。コポコポやられて私はだんだん肉体を得る。労働者の肉体。戦士の肉体には及ばぬながら。とその時、クラゲ女の欠片が。ついて来たのか。すみません。お前はバカだよ。わかっています。「お食事ですよ」と言って天から乳房の垂れ下がる。いい匂いだが、ちゃんと洗ってあるのかしら……? クラゲ女が耳打ちする。星座の操り糸を切ってみませんこと。私は大賛成だったが、ひとまず食事を済ませてからのことにした。
8
ちょっと奥さんヘラクレスのケルベロスが
ヘロドトスのヘドロをベロで減らしたんですってよ
まァァあ、そォォお。
時間に飽きた時計と空に飽きた雲が
ワニに飽きた牙を持った美女に飽きた美女を取り合っているんですってよ
デルポイのピリオドが躍り出る頃には
ポイ捨て禁止条例もアタラクシアの当たり屋でしたとさ
ざまあみさらせ
憎ったらしいゼノンの贅肉モイラのカプチーノ
くそ露骨なクロノスからクロスして転げ落ちるクランキーコングの粗忽さ
ギルガメシュの下痢がメシです
ドグマの解脱
弥勒の魅力が脆くも付録に
菩薩の誤殺に汚物の供物を
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全国六十万人のベルゼブブもおねんねするぜ
私もひとつ
グルテンフリーのパンデミックを
パピルス抜きで
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