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糸粛

arai

――雨に濡れながら泥で遊ぶあの子のように 語と感覚の間を、音と温度で満たす「糸粛」は、触れられなかった声たちを、確かにわたしたちの内側に残していく。季節も祈りも祝祭も、呑み込まれることなく、ふたたび問われていく

タグ: #自由詩

1,134文字

   
塩の発酵をはじめ
おわりないたびに
焼き直される目よ潰れ、
曇天、いきている 瞼を流す。
   
咀嚼されるべきだったしぶきに綴じられ、やがて
過程が波紋だけをおもっていった
わがままな罫線は不安そうな水で薄められ
解いてしまう。祝祭が口内のひとつぶの雨とある
   
季節は瑠璃祀りに狎れない。凛だけが妄昧を総べる
そのひぐらし。呑み込むことが罪になるなら、声を上げる
波打ち際にすこし浸された球茎は微動だにせず、
動悸は拳を握りしめる
瞬間。潮騒に投げ出された、サラダ記念日
   
 きらめき 団地の階段と、いしとうたえ
 ゆらめき ためいきのリズムに似て、こわい
 あかくしろいマチエール、そのものを媒介にして突きつける
   
橙の橙である白波はおおく黄昏に撹拌された空である
感情だけが先に炙れた、抱きしめ損ねた湿度、頬に寄せるアオイの花
   
じゃあ糸くずの余韻だけ、
嚙みきれなかった群青へ
   
( 弱々しい小さな女の子が雨の中、泥遊びをしている
   すごく遠くてだからこそ深く、重い、
   夕暮れは確かにピエタに反射して、
   さざなみのために貝殻に籠もる、
   座のあちこちに薄氷はへばりついた。
   鉛の春に耳をあて。
   これら影芝居だけが賑やかな鳥もまた
   水平線が喉に懸かる、祈りに熟れてゆく
( レインコートを着て なにもかも濡れて嬉しそうに
   
可視化している。
輪郭を引く。観た 視た、寄り添いながら狂うことへの畏れ、
答え/ではなく 問い/が生まれては 活きていくこと
――砂糖をこぼした
今、シリウスの灯り。錆橋を永遠と亘れ。
しゃぶられた果実のように見開き乍、
ふたたび南下し、水無月の書物を置いて受話器を取る。
通りすがりというには浅はかで、誘われたといえば、無責任な。
ここには、椅子がないので、ずっと立っててください。
   
小指のさきに浮かぶ天使は 雲の道に足をうずめながら砂浜までなく
その手が優しく包みこんでくのを、ながれのように細めていた遊戯
   
 近いところで続く
 そよ風に暴かれていた
 未明の胸骨に押し花をどこか欲している。
 背中で笑っているわたしの火か
 いる。ゆれて、いる。
 上澄みに芽吹いていた、
 声のないひととき
   
 拝してほしい
 追い詰めて、崖に連れて行くように諭して、
 排してほしい
   
閉じ込めた六花のマナコも黒い土である、瑞々しき屍体を蒔き直すな
石化した森というには不可青い、ロモグラフのカメラを持って揺り戻すか
すでに、つめたいかぜでは誤魔化しきれない
空腹でちっぽけな風船を捕まえて吸い付いてくる
動的なもので、刃をあてるだけ、
仰向けには杭があるだけ。
分岐する。産声も喘鳴も折り紙のかたちで
( その多量のぽえじーたちは 到るのか、 )
微笑みを装った余白が、むかって舌打ちしていた

© 2025 arai ( 2025年7月31日公開

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