4時にセットしておいた目覚まし時計が鳴る。布団から手を伸ばしてもなかなか時計を掴めない。それだけ覚醒しているのだろう。稲生清弘は、ようやく時計を探し当ててアラームを停めると、妻の翔子を起こさない…
夕闇を過ぎ、暗くなった部屋の中で、ビデオデッキにテープを入れる。古いアニメシリーズの再放送を録画したビデオテープも、牧夫の置いていったモノだった。けれど佐々木晴男は、このテープだけは繰り返し何度…
暴力的な音で目が覚めた。部屋のドアが再び叩かれているようだった。 なぜだか知らないが、また誰かが扉を開けろと言っているのだ。佐々木晴男は眼鏡をかけたまま寝入っていたので、首を横に曲げるだけで…
佐々木晴男は今、朝の六畳間で六年前の[おこづかい帳]を感慨深げに眺めている。八冊の大学ノートは同じ大きな茶封筒に入れられているため、いつでも取り出す事ができるのだった。 佐々木晴男にとって、その…
佐々木晴男の一日は、数字と対峙することから始まる。 その数字は、新聞の経済欄や株式市場とは何も関係がない。その数字は、今月の交通死亡事故件数にも、ここ数年の少子化率推移にも影響されないし、遠い国…
この辺りでは3日に一度ぐらいの頻度で空から長谷川が降ってくる。長谷川は深海に漂うクラゲのようにゆっくり降ってくる。
機械が発達するにつれ、ついにテキストは自動的に生成されるようになった。この時代に私達のテキストはどのようにして奪われていくのだろうか。
グラビアアイドルというものは、だいたいが何となくそうなってしまった人間が多い。上野も新宿で何となくスカウトされて何となくモデル事務所に席を置き、進められるがままに撮影会をやったりしたが、結局自分…
ひろし君が僕のクラスに転校してきたのは5月頃でした。クラスは転校生のひろし君の話題でもちきりになりました。趣味、好きな漫画、特技、前に住んでいた場所など、さまざまな質問がひろし君に向けられました…
・1・大学生 ガッタン、ゴットン。ガタン、ゴットン。「次は成田、成田。終点成田です。」 白(はく)は二十歳になった。特に、とりえもなく、目標もない。ただの大学生だ。毎日毎日大学に通…
電子書籍という言葉が喧伝され、なにか本よりも安いものが流通するのではないかと期待されたがそうはなっていない。これは端的にいってテキストに値段はつかないからだ。私達は今、19世紀のお針子たちのよう…
ある湿っぽい夏休みの朝、三年C組の女生徒がコタツのコードを首に巻き付け自宅の二階から飛び降りた。二階の窓からぶら下がった女生徒は糞尿が垂れ流しだったと、勝手口に座り込んだ酒屋の親父が僕の母さんに…
クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』を元に電子書籍が破壊的技術であると仮定してみよう。新技術によって破壊された荒野で、あなたはどんなテキストを紡いでいくべきか。
愛の正確性。 仕事から疲れて帰ってくるといつも通り、妻のユミコが豊満な胸を左右に揺らしながら小走りで迎えてくれた。ユミコは縁がフリルで装飾された、白いエプロンを裸の上…
ここ数日間、何かとても臭い。 私自身が臭いのかと色々調べては見たが、足の裏、耳の裏、奥歯、ワキ、そして衣類に至るまで特に何も臭くない。 では私の部屋が臭いのだろうかと、ゴミ箱から畳、壁、天井、エ…
「地下鉄で、ザジを見たの」 町子がそう言ったのは、十月も終わりかけた、やけに陽射しの強い日の午後のことだった。 「ザジって、フランスの?」 「うん」と町子がうなずくと、子供じみて短く切り揃えた前…
いまあなたのテキストは文学的か否かというよりもまず、「いいゴミか悪いゴミか」を問われることになっている。それを知った上でなお、あなたが紡ぐテキストの価値は残るだろうか。
『笑う門には福きたる』……誰も死なない。幽霊や怨 霊なども出てこない。みんな笑顔で世界が平和になる、世にも恐ろしいお話です。平和とは? 幸せとは? 神による痛烈なアイロニー! あなたはこの恐怖に…
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