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どうせしにゆくだけのものそのじんせいのひまつぶしに

arai

具体と抽象、動と静、記憶と忘却——日常の裂け目を縫い続け言葉の境界を溶かしていく

タグ: #散文詩

2,064文字

濃い雷鳴がゆっくり移動して呼び捨てにあたるとき
 ゆるく祈るようなときならぬ。こう、しばらく抱きとめる
 「いかれている」ひと息ごとに部屋を柔らかく塗る
 
 あたたかい午後の隣で、濡れた針は互いを文字がすくいとり、定規ない線が雨をおさえ眠っていた。海なり、貝殻のおくで迷子になった波が何千年もかけて、ひとつの錨を見つけた時の透明なライド、鎖きしみがほこりの域を夜の高さで足をとめる
 湿った海図に変わって持ち上げた手のひらの中央に指さしたのは、のろい 裏返る・ゆれる 瞼に厚くする。きっと一番星はおもみない蜜柑の香りが夕暮れをろ過するブレーキ音。段差は勝手に殖え、夏がこぼれる馨りに這い、トタンの鈍いえみ、古い錆という名に庇に化生をおとしながら。空腹をそっとひきぬく
 また微風ぢみた布の目が藻層を汲み入れ、壁のいたずらを、シミというひし程とおいわらう声を、宿らせている、アストロラーベの残響/斑煉瓦のひノもとで、こまかな塩の匂いを撒くベランダ越しの蜘蛛が、横むきに受けとめるうつわに、自分を預け去っていく
 眼光定まらず軟らかいものが砥石を欠く、こころからは、にがりきって くせに有り余る時間をまるめこむ。覚えている男の振動は ぺしゃんこに照り返す瓶のそこに、噛まれない脈が呼ばれ、ふつとこぼれたザラメ糖
 左手で描く右側の夢が桟に置くグラスの内側を、這い上がって溶ける瞬間の悲鳴をくゆらす、微温の砂を噴き、かたむく、光がぬっとして視線をぶつけると、絡繰りを砲声が、ためらい、つらなりひとつは微笑みふたりは囁く
 
 かぎ裂きの詩。あいだに澱み、浴びせられた言葉ほど弱い。遅れがひろがり耳殻のふちでおどけていた。眼球をかえして欲しい、群がり咲く雨が慎ましくひしゃげた枝を――常磐あらましをより後ろ指一つ刺されない他人。枠内はあおい手を携えていく。東方ではついに飛び立つ。
 静寂の謳が密かな甘さをとどける、転がす、すなのあらし。傘を閉じただれかの肩が背骨を降りる糸を通さず、意図をくぐる。彼方ほどいたから意味は腐らず、瓶詰の胚ではない眼がまたたき、展線で不在を接ぎ木するいまに、薄膜が透けて見えていた
 台所の隅で薄く溶け残る猫が丸まりながら、読みかけの窓硝子をふくらませる、視線はジッと 指紋が紙魚を狙っているような古い、図書室の靴底に、秒針として、生々しく模様を増やすうつせみたち。歴史を積み、ブランケットまで届くのだろう
 鏡のうらで寝ていた雲になる手前で ねえ、寝室の片隅で静かに立ち止まって。隘路を綴じてちかづく鍵穴のない躰に、拍手が波打ちわずかに発光するような、落葉の上に囃したて、谷の底面につづくサファイアの桃をむく
 また惹き付けた感触が(ほのあおくわらった?)生にえの驟雨となり、ゆらゆらと延びてしまう。いや忘する シンクの底で虹色の薄膜を作りながら 寂しい平面に白いものがホロホロと露になる
 
 これは風雨に曝されているもので、額の奥で、欠片は迂路をカチカチと指で叩き続け 震えては、いる。窓辺は幾重にも頬を濡らす魔力にはない。人気ない鳩の絵のことはわからない。調べに弦楽器をともない透明に溶け込んで いく、ときに 儀式の生贄になるじかん、まばたきを諦めるすがたになる
 ただ、ふりかえって蠢かす、ブリキのハコの取っ手に消えない毒蛾とまわる。――なら邪気のない子どもらしい、温和、みなも、なお、世界じゅうのひをかむり、天水を嗄れ霧にぼぉと湛えなさい

(ひとどおりに貼りつき天井へ縫い付ける証拠にうなづいた)世界はいま、囁かれている訳で 思っているより生きている/雪片のかたちを覆う春が篤くなる順番を覚えていくように/浮き上がる自分を口にして 少しずつ、ほぉと内側にゆるむ/喉に溜まる明るさだけがなぐさめを測り損ねた/どこにあるのかもわからない。ハッとした鳥の骨だ/ふたつ折りのブルーライトやブラウン管から漏れはじめた星座も/誰かの瞼の裏で迷子になりながら縮んだ記憶と描いては/いまにしづむ。たましいは大きくあけたまま息をしていた(乾かしていた指の節に季節を置き去る。くぐる粉状の舌打ち)
 
 しんとしたこいに ぱたりとやみのそこに わたしがゆれる。あれは犇めきあり、と あたる。耳に詰まっていた気がする〝とえはたえ〟の稜角が路面で重なり合い、やがて下水の暗がりへ流れ込む。終奏の舞踏を続けている、封じた蝋が指先へうみだす
 あなたは手繰り寄せてみるか。黄昏へ膿みだした建物の影と口吻するほのお〝たがい・ちがい〟と、帳の襞を掻き混みながら朝には少しだけ違う輪郭で目覚めることだ
 語られゆく呼吸。唇へ触れるまでに消える。真珠色の街の辺縁をざりざり削って、無傷にうずめる段を踏むたび かたちよい葉先がだらしなく下を向くたとえ『トワのつぼみ』とある
 そっと曇らせ香が黙ったまま、もてなした椅子の元をたどれば。萌芽、性懲りもなく潮になりまた小さな滴へ変わって剥がれる。開かないまま近くにいたかもしれない。いらい咬まない歯、駆けおりる、舌の裏で立ちあがる北を捨て、撫でるたび時がずれ、かおいろのわるい手帖が、泡立つ空気においてかれる

© 2026 arai ( 2026年1月30日公開
※初出 https://araireika.hatenablog.com/entry/2025/10/23/164721

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