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かそうすいみゃくは(ひ)しょうどをあげる

arai

呼吸する異物のよう水底で腐りながら焼け残る羽音が所在を拒む掌の境界は漂う像に熱を蝕み感覚だけが歪む言葉に崩れた光を

タグ: #散文詩 #自由詩

4,125文字

 砂に書かれたまぶたでいびつな手記は風におどる祝詞。でも届かない。ぬいぐるみの花をける。曖昧な罫線には発芽しかけの合鍵を。説明不能の矢印がひとつだけ、ぱっと照り輝くから。焼け残った羽音の群れがてのひらに感染ったぬくもりと窒息しそうで 何かを掴むことをゆるしはしない
   
 指先がそっと表面に押し当て速度を与える
 やや、だらしなくなっているか
 いつかどこからか上書きされ続けた定型句
〝死は辞さない、明滅するだけである〟
 それすら、わからない
   
 今、暮れ始めた時代を見失い橙のカガリが斜めから差し込み、薄く反射して常にズレ混まれ固定されないまま、インクが詰まったクラゲが揺れている。今日の夕方は何時最寄りいつもより息を吹き返したもの。動こうとしても足がにぶい。たとえばスーツ姿の男性が光の屈折に取り残された感覚に だれもいない案内板に「誰か」が口気継ぐ重い。空席がたがいの引力を痴らぬまま2025年を示しているのに、鈍温にぶぬるい風が目褪めたばかりに、ただ経ち尽くす。ふと居合わせる、錆びた陳列棚の隙間に使用不能な慈恵が或るキミのカルテだけが式を握っている
   
 逝くこともできず、還る場所もなく、熱で歪んだプリズムを指折り数えるけれど中心部は空洞で、そしてたぶん、無音が棲んでいる。ふかくかたく閉じられた赤子のてのひらはパッと花開く。うにゃうにゃとわらうように、ひねり出される糞便もまた、祈りの理屈だ。どうせいのちを授かった真宵蛾であっても、顔をあげるとうなじからはじきかれ、さらさらと零れる、ことばをとく。埋め合わせた足枷ぽつり、接触点をみたのね
   
 いまよはずむこえでつたえ、生息地はけっして戸波のない断面を、乱暴に割いた胡乱の時間を、告げている耳鳴り。あなたの繭とは母性の吹き替えではない。なだらかな軌道に蒸れているように火瀬を退く。輪郭をもたないコーヒーを片手に、物事は汲み尽くせない夢遊病者の演算を、寒々しい空都市の導管の中、戯古書の午睡余白、又は、水葬、のばあいもある――索引はにわとりたちではない
 アパートの一室から、慌ただしくも秩序を抱いた喧騒が飛び出してくる、空っぽの冷蔵庫と、乾ききったコップが置かれたテーブルのある部屋をちらりと観た。あるいは、発声器官を保たない代わりに、
   
息継ぎにするな――
   
 どこなのか はっきりしない アスファルト
 なんだかわたしはそこにいない 畳の上/睡り
   
 じんわりと肌に染みる点のように微量の錯覚に息を詰めると、出会い損ねた比喩たちが観測者の掌を這った
 それに伴う小さなささくれが惨む、感情はもしくは未来の吐息みたいに、無人の都市にそっと絡みついて、いったい「いつ」の時代にいるのか
 耳には届かず、意味を成さず、象徴でもない境界を去るよう、ただそこに沈黙し濡れて在る。まるまった玉響たまゆらのように語りかけてくる
 ベンチに腰を下ろしている足元にはノイズの洪水、夜の海に浮かぶ蛍光プランクトン。与えられた文明の泡たちがと古びた窓前に引き戻されてしまう事実が、ひとつずつ弾ける前に、私はその円から外れてしまった
   
 高い空に浴びて白く燃えるよう霧の森を流れる焦点の河を絞ったら、机上にただ、通知もない「帰るべき場所」とは、もっと根本的に陽だまりをみる
 ああ、うたうさかな。恋人も家族も友人もここにはいない。なあ、うたうさなか。やわらかい指紋の感触が熱に見えなくてもながいあいだ足を止め、誰の口にも属さない呼吸がこちらに、不死鳥に次いで
 濃密なタペストリに織りあげるなんて、醜怪は輝いている氷片残光、まあ迷子回路の模型風が元素に入っている。産湯。まだぬくもりの残るマニュアルに棲む誤植、さかさまの羽化。まさか! スマホを確認しても、ただの余熱や感情の核がどこにあるのか。手を引かれゆく! とけきれない体温、架空のカウントダウン、たまに見失うよ
 靴音と足跡、瞳と睫、標識と記録。水滴を含んだビニール傘か、もしくは読みかけの週刊誌の廃熱をしていて、いつ時代に置き去られたのか分からないまま、香水のように封じられる。ネオンテトラの濫觴、その程度の豊穣でありましたが
   
 今、触れられていたはずの気配外れの診療所で曲がった名前の束、陥没領域の波長に結合しかけた声帯、赤く腫れたレコード盤、持て余している存在が完全に確定される前に、掲げられている不特定のものを、捉え、網膜をすり抜ける半生物の総称である〝モノ〟に接し、連綿を改める
 感知されないレプリカ「何も意味はない?」そう知人は靴を脱いで撮影を試みてもピントがあわず、シーツにカーテンの照り返しに目を細めつつ、しあわせをなじるだけで。輪郭はまさに時間遅延のなかで、霞がかる抱擁は違和感を臆することなく、箱庭にちょうど入っております
 いつかこのまま折れ曲がったままの手がせめぎあいながら、記録されることを拒んだ記憶の表紙にだけ印字される。やわらかな雑草が割れめに、ふたりぶんくすんでいた風に それは容態と聞こえた気がした、ときだけに 破れたひかりに喃語を混ぜながら、間近に迫ったまばたきをあらためていた
 あるいは監視カメラの黒い瞳が若かった頃に孵り、まるで盲目のふりをしていて驚嘆する化かし、伝えそびれたことがあったとき──誰よりも――その亀裂から――漏れ出すものは過去を巻き戻すか未来を編み直すか
   
「所在は、すでに特定済み」体の無音に耳を近づける。できるだけ、庇うように囁くように反転して降って湧く。夢の境界付近に限られるふたつの裂け目は鋭く尖り、体表は常に滲みを帯びており、その白い筋が絡まる鏡ではない
   
 そして再び啼け! 自己はいるのか判らなくなるあの、底を剥いてしまった高所での――水面下0.3秒の光にただただ濁っている。空きボトルみずくさい網棚の記憶障害が反応して脈打つように露われる
 ガラス戸のそばに立ち牢獄のかたちを惹きつけた疒。忘れられた言語の母音に寄生している安息。低い堤防に迫ってくる小糠雨。眼下には無数の蟻のように動いてくる彫刻
 なにかが爆ぜるような弾くような硬めて潰したびー玉の行方をふと、大きなときだけが地に根を生やし芽吹く蘖ごとあなた切り倒された、やれ木目地のうたが聞こえませんか
   
 自らの輪郭を解除し、タクトを振る。ただ合図だったはずなのに、眼球裏に付着し腐敗させること、また背後で息をする凶気のような体鳴楽器、私は今、落ちかけたヱ昊と会話していて。曇った眼鏡の内側で、空気を震わせながら流れてくる。折りめのついた火球か もうこの世に存在しないのものが。樂など舞踏だの つつみ、オレンジの焦燥を撫でる手 ちいさな子がふたり、サヨナラして。ほどあとに焦がしながらふたり、それは恵みだと謂れれば収まろうとする〝あのね〟は、かつて溶けたキャンディみたいだ
   
 経過をひとつ摘んでみる。神経を尖らせ回らない球体の拍動、どこへ向かうの? 詐病別名と癒やすのは一方で、記憶として立ち上がる時間の圏外――硬直した車輪の轍に貼りついている藻の領域まで奔りだす   
 散弾銃で撃ちまくる。母親らしき影が近づいてきて 置き去りにする瞬間が自由で無秩序な場所として交差して倒錯している。残像を焼きつける金属製のスピーカーから生る 夢見心地の皮膚感覚で繋がれている/ボタンを無意識にいじっていた/「夕焼け小焼け」のメロディが。/ただ外から視ている、/冷たい風が一瞬吹いて、/スカートの裾が落ち着きがなく苛立っているような……軽挙妄動に隷え
 いまのわたしにはただの拒絶にちかい
「聞きたくなかったこと」を思い出す伏線でも、過去の端と黙し、ひなたぼっこして(代名詞)の舌を借りて、ワタシを嘘にした。じわりと滲むように、ひとつぶの形をひきこなしては、ひっかき傷を残していた きっと少女だった頃
   
 輪郭がずれている、殺意が、白い砂に釈けて静かな雨を閉じ込めている 夢に、そのフィルムの縁は奥に〝いつか〟として婚姻したところ。がんじがらめあたりの被写体が平らげる 継ぎめに溢れていく下記であり、まるで瓶詰めされたそれは〝水鏡〟と私ともいう
 こうして狡い水圧の変化とエグい鱗の反射でショボい旋律を編む。そんな怨念か まあやっとだ。読めなかった地図は解説された情熱を布いて、
 オブジェではない、(間をおいた一説がすること。)
 沈殿する。ひとさじが目的の図書館の舞台は個体差があり、世界はすれちがい、対比で眩暈がするだろう。わたしとは〝取り払われ鳥が羽ばたくばかりで、胸のしじまで小さな軋みがしたもの〟ですから
 だぶだぶした上着の背骨が支えきれず、足が途絶えるのを待って、有り余る遠くの声を抱えたまま、化け出る。
 極端な可視化と透明化のなかを游ぐ〝うたうさかな〟 
 空洞は溺れていて腹が減ったか。じゃあ夜更けのコンビニも街角で充満した静けさに対して、すこし質量のあるちんまりとした鱗がいちまいずつ流れ、うすらさびしさは同じ温度でノートの上で乾いていた。クソっ! 識る者のそれは、背広の袖を引きながら、コトバを持たずに体が冷え切るのを感じていた。そうだろ?
   
 あなたは生まれたことをの内にも中り
 泡だつ古いうたを、足れの声にもな狎れずに
 ワイヤレスに飛び回る不透明さに導きました
 ぬいぐるみの裡に〝棲ませる〟ことで 愛情と見誤る
 行き先表示は〘∞〙のまま夢の角度で凍結され
 すべて水色の点描で産められている
   
 椅子には誰かが置いていった星も、時間も、きっと今日を知らない
 このペンのないメモ帳と、傘の骨だけが限りなくあった
   
 プレーヤーはそれを「懐かしい音」と再生し、あるものは「自分の心音」と錯覚する。語る意志のない風景が生まれるときも、リピートされる空気が手をかざす、すきまに香った血潮は選択肢にない答えを物理的には飼育できず、乾いた場所では自然死する
   
 子どもが 親の手を ひきながら歩き、時折、何かを指しては
 (参賀し律に列ぶ 
 すぐ車のエンジン音にかき消される 主役はいつだって後者の形相
 またそらんじていて みづを掻く
 無心の視線 傾いている糸の切れた風船が演劇のようで
 、かみしめて いつくしむ

© 2025 arai ( 2025年8月15日公開

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