言葉のボクシング

加羅戸麻矢

1,619文字

言葉の意外な組み合わせの醸し出す雰囲気って不思議です。例えばジョルジュ・バタイユの『太陽肛門』とか。私の頭が悪いせいか中身がさっぱりわからず、今は漆黒の表紙の白抜きの文字と表紙カバーの「私も汚れたパロディなのだ」を見れるようにオブジェとしてたてかけてあります。ところでブラピの映画「ファイトクラブ」を久々に見て「言葉のボクシング」を思いついたので書いてみました。

言葉のボクシング                加羅戸麻矢
(実況中継)

今夜は噂の言葉のボクシングのチャンピオン戦

赤コーナーには:炎のように燃える深紅のベルベットを纏った「愛人」と言う文字選手が熱く登場
一方青コーナーにはクールに落ち着いた青いラビズラズリ色の衣に身を包んだ「契約」と言う文字選手が静かに登場

 

両者マントを脱いでコーナーで対峙しております、
場内は興奮してワーワーと叫び声が渦巻いています、
今日の観客は特別に招待されたカップルの人たちで様々な年代層がいるようです、

 

さぁ、第1ラウンドのゴングがなりました。

両者にらみ合っています、
おっといきなり互いに近づいてきました、これからパンチの応酬でしょうか、

(一瞬の後)

な、なんと両者はパンチすることなくいきなりクリンチしてしまいました。
ということで二人は合体して「愛人契約」となってしまいました。

 

おっとまた変化が起こりました、いきなりリングが盛り上がり両者山のてっぺんに達しました、
そしてお互い蓮華座になりながら抱き合って歓喜天と変わってしまいました、
双眼鏡で見てみると、共に永劫の歓喜を味わっているようです。

なんと対戦相手同士は対立する2つが合体して1つになってしまったようです、なんとなく不二一元論の世界?を醸し出しています、一方観客席の方を見たところめちゃくちゃになってカオス化しています、

これでは試合にならず視聴者の皆さんに申し訳ないので(アナウンサーの頭の中はスポンサーからお金が貰えなくなると心配になったので)、観客席にいる我が社の現場レポーター(実際は単に時給千円+αの最低賃金で急遽雇ったバイトの女子大生)に観客の皆さんのコメントを聞いてみましょう、
さぁ、観客席からのレポーターの声を届けましょう、

(バイトのレポーターの声)
観客席は大変になっていますが、とりあえず世代別にインタビューしてみます、

最初は結婚を控えたカップルからです、どうですかこの状況は、と聞いてみると、お互い夫婦になっても永遠の愛を日々誓い合うそうです、

すると近くの席のどっかから「幻想の宴の数年後、子供が家中を歩き回っている頃に同じ質問をしてみたいもんだな」との声が聞こえました、

 

さて次のカップルです、結構大きくなった子供が3人いて上の子は家庭内暴力で真ん中の子が引きこもりだそうです、
インタビューした途端に2人の顔色が真冬の北国の空のように曇ったのでそれ以上聞けなくなりました、

 

続いて次のカップルです、そろそろ中年の域に達した夫婦のようです、聞く前にすでにバトルが始まっています、奥さんは住宅ローンの返済と旦那さんの小遣いの減額について猛烈な勢いで攻め込んでいるようです、旦那さんはほとんどTKO状態になっています、至急担架の手配をお願いします、

 

ところで、となりにちょっと年輪を重ね、そろってゴージャスな身なりの中年夫婦がいらっしゃいます、話を聞こうとしても2人とも何か我慢できなくなって居ても立ってもいれない雰囲気です、
おっといきなり互いにそっぽを向いて自分の携帯を取り出して何やら別の誰かと連絡を取り始めました、どうも高級ホテルの今夜のリザーブみたいです、それぞれの話し相手は羚羊や燕でしょうか。

 

観客席の方ではパンチの応酬が多くなっているようなので、やっと見つけたここでは珍しい老夫婦のカップルに聞いてみます、

最後のインタビューを試みたのですが残念ながら答えてくれません、お二人は両人にしか呼吸することができない冷えた空気に包まれてこの熱気あふれる会場とは異なる特別な一体感を醸し出しています、
2人とも会話を交わさず互いの目線も平行で交わることなくその場だけ極寒の地と化しています、
目線の先はやがてお二人別々の住処となる離れて置かれた骨壷に向かっているようです、

以上観客席からの実況中継とインタビューらしきものをお伝えしました。

 

2025年1月22日公開

© 2025 加羅戸麻矢

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