昭和餘年に起きた出來事・1

昭和餘年の出來事(第1話)

幾島溫

小説

1,242文字

軟禁生活時代に毎日書いていたショートショート群です。

(1)
星が僕の中を流れ落ちて行つた。身體からそれを出さうと七顛八倒してみると、口から出たのは蝿だつた。溜息が出る。すると腹の中で何かが動いた。解つた、星は未だ此處に在る。ならば出るまで吐き續けよう。あれから三年、私は未だにバケツから顏が上げられない。

 


 

(2)

辨償出來るだけのお金はないから、僕がストラップに成る事で話がついた。「思ひ出はお金に換へられ無い」僕は彼女の思ひ出の品を壞したのだ。この生活は滿更でも無い。何時も彼女の側に居られるのだから。でも彼女が彼氏に電話してゐる時だけは頭の紐をちぎって窻の向こうに逃げたくなる。

 


 

(3)

腹の中に天狗が居る。去年の夏ジョッキに腰掛けてゐた所を氣が付かずに飮み込んで仕舞つたのだ。天狗はビールと一緖に喉元を滑り落ちて行つた。天狗は食に煩くて「蕎麥はもう飽きた」と僕に好きな物を食べさせて吳れない。だから僕はメニューを選ぶのに時閒が掛かるのです。

 


 

(4)

シルクハットを被つて、君と美しい森を散步する。
僕はそんな戀がしたいと思ふ!
だけど幾ら森の中を步いても僕の戀は中々見附からない。

 


 

(5)

確かに手應へはあつたけど暗闇の中ぢや何も見えない。本當にあれは死んだのだらうか。寢てゐる振りをして居るだけぢやないのだらうか?息を潛めて膝を抱へて夜明けを待つ。流行のアニメも噂話もすぐに飽きた。ネツトの絲は何處にも繋がらない。あと何時閒夜明けを待てば良いのか。

 


 

(6)

窓を開けると燈りに誘はれたのか蟲が入つて來て、僕の顏に眞直ぐ向かふ。平手で蟲を拂はうとすると命中した樣で蟲は足元に落ちて行つた。「私は美の國から來たむくみの妖精です。あなたのむくみを……」蟲から聲が聞こえる。よく見ると蟲は人閒の女性の樣な姿をして居た。

 


 

(7)

僕のお腹が緩いのはストレスの所為だ。全部奴らの所為だ呪ひながら死んだら、祟りを恐れた奴らが僕を神社に祀つた。それでも呪ひ續けて彼奴らを下痢で苦しめると、噂は廣まり何時しか便祕で苦しむ人々が此の神社に集まる樣に成つた。―此れが快便神社の歷史です。

 


 

(8)

火と水と油の三角關係!油は水を拒絕し、水と火はお互ひを相殺する。そして油と火のお互ひをも燒き盡くして仕舞ふ樣な熱い想ひ!どうなるこの戀!!

 


 

(9)

趣味を聞かれたら何時も正直に「虎狩りです」つて答へてた。男の人は嘘だろつて言ふけど、槍の寫メ見せると途端に默つちやふんだよね。飮み會に行くといつも最後は一人ぼつち。だからもうハチマキとタスキは卒業して代はりに付け睫毛と短いスカートを履くことにしたんだ!


 

(10)

「#小説」と唱へて一度深呼吸したら、みんな物語の中へ吸ひ込まれて行くよ。ほらね、ハゲた上司の臭ひ頭だつて物語に變はつた。見てごらん、彼はもう讀まれてゐるよ。

 


 

2024年5月31日公開 (初出 2009年頃 twitter(垢消し済み))

作品集『昭和餘年の出來事』第1話 (全3話)

© 2024 幾島溫

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