『彼ら』が知っていること。

巣居けけ

小説

1,888文字

本当はなにも知らないんじゃないか?

彼らは車から飛び降りるとどうしてあんなにも勢いが付くのかを知らない……。さらにむき出しの欲望を赤色のマントで覆い隠し、ホテルの最上階のプールの水で清めている。スポンジを食らうだけの犬……。虻の死骸で白米を埋めている主婦……。
「今日はこれでいいかしら?」
「ああ。箸は?」
「ここよ」

そしてスナックの中から萎んだ風船を二つほど取り出して、他の誰にも観測できない不確かで揺れ動く足取りを幸福する。

彼らは素数の仕組みすら知らない……。軍隊の流れと色どりのインタビュアーに投げられた穴。最低限の制服と惑星の間に潜む二つの腕の巨大なポリエステル……。祭事のための酒と唾液を混ぜ合わせて携帯電話を確定させる。
「誘拐でしょう?」
「いいえ……」という光っている掃除機を指で押し込んでチャンバーに装填している。さらに回避の繊細な力から前転を危惧して雪のさ中の熱帯を選んでいる。

彼らはマヨネーズがどうしてあんなにも肌色に近いのかを知らない……。コンクリートの壁で心に余裕を産み出してから馬に乗り上げて身体に蹴りを入れている……。引き金を押し込んでから鉄の温かい虹色に呼び出しを叫んで様々な形の臓器を告発する。彼らはどうして人間が二足歩行を続けられているのかを知らない……。変幻自在な浮遊のためのタイヤによると、国語の辞書が総じて分厚いのは人間の小さな喜びのためであるという……。コートを翻して西からの風に黒く硬い雲を与える。

彼らは自分の先祖の罪を一つも知らない……。生徒たちは自分が手に持っている泥の意味を理解する……。そしてベッドから落下した四肢をもたらして学科の選び方を学んでいる……。

彼らはバッティングセンターの機械の仕組みを知らない……。さらに、彼らはハンマーが描く円周率の催促の音を知らない……。味のしない手術に血飛沫をもたらした記者と岩を食らうだけの百足の牙……。最先端の鉄砲や引き金や人間の頭髪に関する新しい事実……。ロケット弾丸に浸水してブーツの中に澄みきっている階段の色と色彩を失った人間……。直撃する言葉のカプセルと落語の続きを訪ねるトレンチコートの刑事たち……。

彼らは戦争を知らない……。空に漂ういくつかの国が、もとは落下していることを察知する。そして炎天下の中の公園に鉄の溶ける音が迸るのを感じる……。咆哮を選定して獣だけの教室に肉を放射するだけの実験結果……。白衣がよく似あう男になれ……。

彼らは重火器に塗られる油のぬめりを知らない……。胃液と偉大な銅像によって倒れていく校庭の石……。しゃがみ込んだ女児の舌に出現する小さな鮫……。追いついていない涙と和紙による手紙。蟹の口角が存在しないことを五年かけて証明した学者。掃除を嫌った全ての主婦に届ける雲のような気体の冷たい劣勢……。

彼らは滑り台の使い方を知らない……。彼らはこの先の未来で早急に回収される鉄の破片を知らない……。クレヨンの軍隊とマーマレードだけが省かれた小中学校の体育館……。
「浮世絵で取引しろ! さらに商売と、硬いだけの焼きまんじゅうだ」
「甘味で死にそう」

スプレー缶を腕に取り付けて新しい音楽に酔っている……。電動で動くのこぎりに舌を切り離させてから、二階へと続くロッカールームを叩いている。「おれはレミントンだけじゃ誕生日を迎えられないぜ? 焼酎を持ってこい。さもなくば死刑だ」
「女の子の股にちんこを入れておいて、その上でギロチンをしたら最高の締まりになるんじゃないか?」

再度停止してから突き進む二段階の曲線と招かれた鼠に与えるティーカップやしゃもじの鋭利な角度……。痛快さを求めている力士と太っただけの消防士の仮眠時間……。「彼らは似て非なる存在ってやつさ……」

彼らは小学生だけで作られているコミュニケーションを知らない……。翌朝には全てを忘れて浜で泳ぎの練習をしている素振りだけを見せる。絵画の予測の飛ぶ冬とエコーのかかる小銭やダイアモンドの鋼鉄を組んだクラブ活動……。彼らはどこにでも現れるクラブ・マニアの正体を知らない……。
「何なら二度目の襲撃で全てを終わらせるかい? お嬢さん……」という呪文が空中を浮遊して学級崩壊の教室のカーテンを食べている。

彼らは三千字ほどの小説の分厚さや重さを知らない……。商店街の先に見える光のような未来と夕暮れ時の風の香りが一斉に空と頬を掠めて過ぎ去っていってしまう……。コートの裏の香りを答えながらコロッケの所在を明らかにしている肉屋の店員……。階段を一歩ずつ上がっている百足だった少女とはちみつの香りの温かい祖母……。さらに遍く伝播した鉄の粉末と鼻に勝利する修復の築き。

2023年3月16日公開

© 2023 巣居けけ

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