沈む電波。

巣居けけ

小説

1,742文字

どうか、『ナイス』とだけ言ってくれないか……。

おれは新しい山羊が交尾をするだけの映像を三時間見続けることができる……。そしてふけと油にまみれた分厚い膝の痺れの中で次の絵画のモチーフを決定する……。「明日はインクを買いにいかなくちゃな……」と、レジ打ち係の頭部を入力して前立腺を摘出する。

流れに乗った絵師たちは自分だけの筆を手に取り、次々と頭の中で発芽する連続した同率のイメージに翻弄されながらも慎重に描き出していく。白を許さない彼らは自分の筆から流れるイメージに自信を持ってから入場してインクを会話をする。

うるさい姉妹の男たちから目を背けるためにイヤホンを挿入する。そしておれは煌びやかな全宇宙と連結し、文字で絵を描いていく……。おれは倒れてくる西の光から身を守るために筆に虹色を溶かし、液体になった白い絵画に新しい死んだ父親の似顔絵を付け足していく。

白の車を動かし、いつものカフェテリアへと向かう。坂道を超えた先にある入り口をくぐり、そこから最短の位置の席に座る。すると焦げた肌の黒タンクトップの男が話しかけてくる。
「メスは入り用かい?」彼は立派ば売人だったようだ……。おれはため息の次に出てくる言葉で空気の形をとる。
「『ナイス』とだけ言ってくれないか……」

すると六角形の鏡の男は右手でサムズアップをした後に、一言、「ナイス……」とだけ呟いて、次には霧のようにさっと消えてくれる……。

おれはそれから港町の中でもっとも栄えている位置で、純正バンジージャンプの練習を始めた。最初は寒さに負けるような肌だったが、すぐに分厚いプラスチックのような肌を手に入れることができた。おれは道の中でもひときわ輝いていた女に機械的な、形式的な声を掛けられた。何事かと訊ねてみると、すぐに彼女が吐瀉物愛好家であることを知った。吐瀉やそれに関する事柄をこよなく愛好する連中は、いつでも口から腐った秋刀魚のような音と香りを放出している。そして三日月の夜に自分の皮膚が逆立っていくのを感じながら他人の吐瀉に思いを馳せる……。おれはそんな彼らの一人の出会えたことに感謝をしながら、女の有頂天な頭頂部に新鮮なドロップ・キックを発動させた……。
「どうだい? 君は蛙になるかい?」
「『ナイス』とだけ言ってくれないか……」

女が揺れ、身体が倒れていく。おれは素早くしゃがみ、落下してくる女の身体を支えてからキッスを落とした。魚の腐った香りとぷにぷにとした感触が同時に唇に触れた。
「あんたは王子様になれるね」と女が意識を回復させると同時に囁いた。
「おれは王女だ」と西の風のスタンプを見ながら誤解を解きほぐしてガラスケースに注射器を戻す……。「ナイス……」

死肉を漁る掲示板の亡者に加え、アラスカあたりの新鮮な乳歯が研がれている。おれは立ちどころに味噌汁のような体液を全身から放射し、鯨よりも巨大に育った太鼓の甘味料に唾の混ざった敬礼を落とす。
「刺身でタオルを活かすのか?」とだけ警告している彼は帽子の網目で漁師を体罰し、引き戸の窓硝子で少年院を建設する。用意された試験管と鍾乳洞の靴下……。事件現場の中の注射器の必要性……。遅れてやってくる刑事の連中……。「なるほど、これはアルカリ性か……」刑事が二つに分裂して再起動を願っている……。
「待ってくれよ課長。せめてあんた、頭にアルミホイルを巻いてから死んでくれ……」

階段の頂点にたたずむ部下の一人が蟻のような分裂と再生を繰り返してから、老いたヒキガエルの真似をする。宴会の当時の音を思い出してからタオルの中での出来事を日記に記し、新品の刑務所の居心地をレポートする。
「ええと……。ここは新しいトイレで、こっちが、ええと、味噌汁専門のトレイですね。でも課長、こんな行為が本当に必要なのですか?」

すると通信機越しの課長が咳払いの後に答えてくれる。
「もちろんだ。これによって世界の事情が二百六十度ほど変わる」
「大胆ですね……」
「もちろんだ。全ては大胆不敵に行われるべきなんだ……」再現のできないカテゴリの中の寒いサイケデリックが叫んでいる。係長への恐怖が彼を階段へと終結させている……。「ぼくらはいつでも進んでいるし、いつでも終わりに向かっているんだ」新しい記者が礼儀正しくお辞儀をしてから、三ミリのカメラでシャッター音を演出する。

2022年12月18日公開

© 2022 巣居けけ

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