夕陽を見てると
「この後食事どうかな?近くに美味しいレストランがあるんだけど」
と大田さんが言った。
「ぜひ」
と私は笑顔で返していた。
レストランは個人経営のこじんまりとしているけどオシャレなイタリアのお店だった。
私は好き嫌いが多いので家族以外とあまり外食をしなかった。
彼氏という関係性の彼とはほとんどラブホで過ごし外を出歩く事が少なかった。
今思えば、私が外に出たくなかったのかもしれない。
だからか雰囲気のあるお店がちょっと大人に見えた。普通のカップルはこういうお店に行くんだと初めて思った。
席に案内され、改めて向かい合うとなんか照れくさかった。
食事をしながらお互いの事を話したりしていた。
すると、
「石渡さんっていつも仕事の帰りって迎えに来てもらってるの?」
大田さんが聞いてきた。
「車1台しかないんで昼間はママ…いや母が…」
「ママって呼んでるんだ?」
「昔からママって呼びなさいって言われてたから、今でもママなんです…」
25歳にもなってママと呼んでるのが少し恥ずかしかったけど
「いいんじゃない」
と大田さんは言ってくれた。
「そうですか?で、ママが昼間使うので終わりそうになったら電話して迎えに来てもらってて」
「そうなんだ」
と大田さんは呟くと少し沈黙が流れた。
「もし良かったら、時間合う時俺に送らせてもらえない?」
大田さんの突然の申し出に驚いた。
「えっ!」
「ダメかな?」
「いや…ダメじゃないけど…迷惑では?」
「全然迷惑じゃないよ。俺が言い出してるんだし。それにもっと石渡さんの事知りたいなと思って」
彼は平然と言った。
でもこれはまずいのではお互い相手がいるんだぞ?でも確かに私も彼の事をもっと知りたいと思った。そして少しでも会いたい。
その気持ちが勝ってしまった。
「じゃぁ、お願いします」
「やった!」
と彼は喜んでいた。
私はなんかふわふわした気持ちになっていた。
食事を終えて家まで送ってもらった。
「ご馳走様でした。帰り気をつけて」
「うん、ありがとう。おやすみ」
「おやすみ」
そう言うと彼は車を走らせた。私はまた彼の車が見えなくなるまで見送っていた。
『今日はご馳走様でした。ありがとうございました。帰り気をつけて』
とメールをした。
『こちらこそありがとう。さくらさんと過ごせて楽しかったよ。また職場で』
と返ってきた。
さりげなく下の名前で呼ばれた。
照れくさいようなこれでいいのだろうかと複雑な気持ちになった。
でも嬉しくもあった。これで距離がだいぶ縮まった気がするからだ。
でもこの先の事、考えないと。
今のままじゃ絶対ダメだ。それだけはわかる。
"この世で最愛で最低な君へ"へのコメント 0件