私は大田さんのメールが来てもベッドから外を見ていた。いつ来るかと。
しばらくすると彼の車が見えて、私の手の中にある携帯電話が揺れた
『着いたよ』
『今、降ります』
と返信したけど、着いた事は知ってる。
だってずっと外を見ていたんだもの。
今か今かと待ちわびていたのだから。
彼の車に乗り込むと
「お待たせ。ちょっと待たせちゃったかな?」
とはにかんだように大田さんは言った。
「いえ、全然です!お仕事お疲れ様でした」
「うん、ありがとう。じゃ、行こうか」
と大田さんは車を走らせた。
「ちなみにどこに行くんですか?」
行先も言わずに彼が車を出したので、ふと聞いてみた。
「俺の大学時代の穴場。その先は内緒ね。
それと2人の時は敬語無しにしない?」
「ああ、すいません…つい」
仕事でも敬語を使うのでつい敬語になっていた。彼に対してだけじゃなくあまり親しくない人との会話は敬語でしていた。
自分の中に入られないように。私は自然と相手に壁を作っていたのだ。
「会社じゃないし、歳も近いんだから敬語なしね」
と言われてしまった。
「頑張ります!」
と私が言うと彼は笑った。
「それ、頑張る事なの?」
「私にとっては頑張る事なんですってまた敬語…」
「ゆっくりでいいよ」
と彼は笑った。
そんな話をしていると、ある駐車場に彼は車を停めた。
「到着」
「ここは?」
「公園だよ。行こう」
「はい」
私は車を降りて彼の後ろを着いて行った。
するとそこは小さい池がある公園だった。
「大学の時よくここに来てたんだよね。
人も少ないし考えるにはちょうどいいんだ」
その言葉を聞いて、私は公園を見渡した。
平日なのもあるし、ちょっと隠れているような場所で人は居なかった。
そして春先な事もあり桜が少し開花していた。
「桜…」
思わず呟いていた。
「お、本当だ。少しだけだけど咲いてるね。ちょっと歩こうか?」
「はい」
私達は公園を歩き出した。
「どうかな?こういうとこ」
「静かでいいですね。私こういうとこ好きです」
「それなら良かった」
と彼は笑った。
私達は公園を少し歩きベンチに座った。
「気持ちいいー!」
と私はちょっとテンション高めに言ってしまい、恥ずかしくて彼の顔見ると
「そうだね」
と笑っていた。
2人にはちょっと大きいけど2人だけの公園。
時が静かに流れる。桜がひらひらと舞っている光景は未だに覚えてる。
いけない事だけど初めてのデートだと思う。
私の世界でまた彼の存在が大きくなった。
夕陽になるまで私達は公園に居た。
私にとってかけがえのない思い出になった。
"この世で最愛で最低な君へ"へのコメント 0件