予想通り北斗はことさらにきょとんとした顔をして僕を馬鹿にしたけれども、金言の補足をする前に誤解を解かなければならないと思ったから、僕は続けてこう言ったんだ。
「北斗、君は誤解している。僕はデスティニーさんを好きになったから彼女の絵を買ってるわけじゃない。デスティニーさんの絵を素晴らしいと思ってるから、だから買ってるんだ」
「いいや、違うな」と北斗。「好きになった人の作品だから無意識にそれを認めようとしているだけだろう」
話にならない。どうしてこんな奴に僕の友人が務まっているのか、その理由を誰か教えてもらいたい。あとついでに、ゴミ箱に向かって道徳心を投げたら誰でも百発百中で入る(たまには外れてほしいよね!)その理由も。
それから僕はやや早口で、先に述べた金言の補足に着手したんだ。なぜ早口だったのかというと、もうピザは最終コーナーを曲がっていてもおかしくない時間だったのさ。
「北斗、繰り返し言うが、君が美しいと感じる愛だけが愛じゃないんだぞ。仮に――仮にだぞ。僕の知らない僕がデスティニーさんの作品を認めるよう働きかけていたとする。それのどこがいけないんだい? デスティニーさんに対する愛と、デスティニーさんの作品に対する愛を混同させてもいいじゃないか、別に。それと、もしデスティニーさんが僕のお金目当てでも、僕はそれでもいいんだ。僕はお金目当ての女性とでも本物の愛を築けると信じているからね。喋ってて気づいたんだが北斗、僕は今、いろんな愛の形があることを理解しようとしない君のその姿勢に怒りを覚えている」
「亜男、俺がお前の恋愛観を咎めたことがこれまで一度だってあったか? 今回だってお前の恋愛観を否定するつもりはないんだぜ。笑いの種に事欠きたくないからな。まあ俺が今日付き合ってやったのは冷やかしのつもりだったわけだが、その自称画家の兄貴だと紹介された男が本当に聴覚障害者なのかどうか、俺がそのことを自称画家に尋問したのは、どういう風の吹き回しか、どこからともなく湧いてきた正義感って奴の仕業なんだぞ。亜男、俺は今そんな正義感に満ち溢れた友を理解しようとしないお前のその姿勢に怒りを覚えている」
美しい平行線だ。
それから僕らは罵り合いに勤しんだわけだが、その仕事はお互い長続きしなかった。双方とも怒りの矛先が変わったのさ。僕らが矛先を向けたのはドミノ・ピザだ。いつもなら二十分以内に来るピザが、注文してから三十分経ってもまだ届いてなかったんだ。
僕は体温が低下し始めたであろうピザの安否を問おうと、スマホでドミノ・ピザに電話した。すると衝撃の事実を告げられた。電話係から調理係への伝達ミスで、僕らのドミノ・デラックス[注1]はまだ作っていないと告げられたんだ!
代金は半額でいいですから、と電話係の青年(たぶん)は言ってくれた。でも僕はこう言って注文を取り止めて、北斗とシェーキーズに行った。
「そういえば今晩からダイエットする予定だったので、もう結構です」
つづく
[注釈]
1.ドミノ・デラックス
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