新元号疾風伝説

谷崎潤一郎は長男

小説

3,375文字

これはフィクションです。関係ありません。

視聴率100%。アルティメット視聴率計測システム〈お台場エシュロン〉による測定結果である。

体重37キロ。ウエスト43センチ。首も肩も圧倒的に細いパーソンが司会をつとめる新元号公表セレモニーは爆速で進行した。

完成したばかりの物故落語家VTuberが前座噺ぜんざばなしを終えたころにはもう、雛壇ひなだんのアイドルや初音ミクには興味がない視聴者層も、自宅のテレビに御神酒徳利おみきどっくりを捧げていた。

続いてセレモニーは、暴パートに突入した。

子供を相手にしてもきちんとプロレスをやれる芸術家気質のレスラーと、盤上真理最優先の永世七冠による将棋プロレスは、予想以上に両者が噛み合う大熱戦となったが、途中で白マントの名人と緑パンツの監督が乱入して、遺恨を残したまま無効試合となった。

さらに空手家と合気道家との死闘の続きも公開されたが、これもまた決着には到らなかった。

新時代への期待と考察が盛り上がる中、ロボットアニメの劇場版とゾンビアニメ第2期の予告篇が放映され、いよいよ新元号発表の時刻となった。

しかし、

 

「まだ残像で消耗してるの?」

 

 

司会者が圧倒的な速度で要人警護官SPたちを手玉にとり、官房長官を絶技〈片翼の天使〉で会見台に叩きつけてもまだ、会場には暴パート第2部歓迎の空気しか無かった。視聴率は100%に達した。

破壊された会見台をSPごと蹴り散らし、司会者はタブレット端末を掲げた。

「圧倒的に新しい元号です」

すべてのカメラの焦点は、その端末に吸い寄せられた。

〈端末〉の〈向こう側〉では、すでに動画ファイルが展開されていた。

カメラが日本列島全土に中継したものは、前時代を引き継ぎながらも圧倒的に新しい動画だった。

 

 

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幼女が道を駆けている。

 

幼女は歓喜に顔を輝かせ、一直線に駆けている。

 

「ママ! わたしの糞便から〈大当たり〉が出たの! 特別なウンコなのよ! だからママ! 体術を中心にやろうぜ!」

 

開いた扉の向こうでは、母親が首を吊っていた。

 

「大丈夫。いま箱根では、想像もつかないテクノロジーが発達している」

 

幼女の肩に、睦夫は手を置いた。

 

「ロボに乗れば、何度でも会えるから。天使の殺し方は、髭グラサンが知っているから」

 

箱根の向こう側に行きます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます電車が来ます

 

「電車は来ないってさ」

 

ならば、終わることの無い無限の電車を要求される。

 

「マウントをとれ。とらないなら帰れ。あと、ドラゴンフラッグを30回3セット」

 

A.T.肩甲骨が開きましたね。

 

「心が傷ついた」「日本語の比喩的表現?」

 

恩赦が先だろ田中! (第二の月がきれいですね) ここで核攻撃してやる。

 

「私の中に入ってこないで!」「日本語の比喩的表現?」

 

廃墟の風呂でしょうもんばかりしとると睦夫が来るぞ。

 

「日本人は必ず立ち上がる」

 

髭グラサンの息子の息子は初見になる。

 

「仕方ないだろ! 朝なんだから!」

 

父に、高野山。

 

母に、金剛峯寺。

 

そして14年前の田島インパクトで父を失った文学に、Congratulations!

 

文学の最後の戦いが何年後かに始まる……

 

 

(次週は休載します)

 

 

エンディング : 永遠にドMを幸せにする方法を見つけましたという主旨の曲(歌い手 : 初音山本陸)に合わせて煉獄

 

次回予告 : 古井戸から髪の長い女が出てきて日本人来週全滅を予告

 

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「つまり……新元号は、今の動画だということですか?」

理解力に柔軟性のある記者が、司会者に質問した。

「はい。この動画が、新しい元号です」

「ちょっと待ってください!」別の記者が立ち上がった。「元号は文字でしょ! せめて〈入江元年〉とか、そのあたりが現実的なんじゃないですか⁉」

「入江も文学も、日本の本質ではありません。不敬もたいがいにしてください」

司会者は、メガネを指で押し上げた。

「そもそも、文字はもうオワコンなんですよ。オワコンを元号にするなんて、新しき御代への冒瀆でしかありません。ダブルそもそも、大陸から文字が侵入してくるまで、この国には文字などありませんでした。鬼哭も無く、戦略も無く、空天地海の光景と意味不明の脅威だけがありました。その本来の国体へ、粛々と回帰をしていくだけです」

「文字はもう日本の文化でしょ! 今さら文字を終わらせてどうするんですか!」

「あなたはGHQの非道な国体実験によって、骨の髄までバカになっています」司会者は断言した。「この国は本来、もっと加速ができる国なんですよ。今こそ、神代かみよの加速を取り戻す時です」

「仮に、新元号がその動画でGOだとして」最初に質問をした記者が、ふたたび手を上げた。「いったい、何元年が始まることになるんですか? ええと、つまり、来月から元号をどうやって表現すればいいのですかというか……」

「気にすることはありません。正確に言うと、それどころではありません。なぜなら、このままだと皆さんは、来週死にますから」

 

 

「先ほどの次回予告は……リアルだったということですか?」

「ええ。新しい元号は、多世界インタラクティブ型ウイルス動画です。どこから来たのか、私にもわかりません。この動画は、すでに100万の異世界日本で、か弱き民草を虐殺しています。ウイルスに感染した100兆人の日本国民のミトコンドリアがオワコンになっているのです。私たちには、この同胞の大量死を無かったことにする義務があります。1週間以内に、何らかの多世界ワクチンを開発し、100万の日本へ因果遡行展開しましょう。時計の針を戻すことはまだ出来ませんが、時計の針を戻せるようになるまで進むことなら出来ます。加速あるのみです」

「無理ですよ! ていうか無理だったらどうするんですか! そんな動画を見せて! 視聴率100%ですよ⁉ 日本人みんな死んじゃいますよ!」

「異世界の同胞を、そして全ての世界の日本国家を救うことは、全国民の義務です。この世界の私たちが倒れても、いつかはどこかの日本人が、私たちを救おうとしてくれます。もしも全ての世界で日本人が死に絶えてしまうようなら、それはまあ、〈不運ハードラック〉と〈リラ〉っくまだよ……ということで」

 

そう言い残して司会者は去り、〈加速上等〉〈走死走命〉〈狂乱麗舞〉の1週間が始まった。

はたして日本人は、多世界ウイルスを多世界的に根絶することができるのだろうか。

希望はまだ、失われていない。

かつて日本人は、疫病という外敵によって、幾度もその生存をおびやかされてきた。

3人逝けば5人死し、5人逝けば10人死す。

朝日に千人、闇夜に万人。

しかし、それでも、なぜか死なない者たちがいた。

不明の理由によって生存し、なぜか子孫を残せる一族がいた。

その一族を取り巻く者たちの一族も、なぜか死を遠ざけやすい体になっていった。

日本人は、その〈なぜ〉を問うことなく、謎の血族を〈王〉として崇め、黙々とそれに仕えてきた。

そしてここまで、生き延びてきた。

文字など無く、理由という概念すらも無いころから、

日本人の心臓は、なぜか絶え間なく動き続けている。

 

日本人は必ず立ち上がる。

立ち上がる。

 

日本人は立ち上がる。

2019年3月30日公開

© 2019 谷崎潤一郎は長男

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