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月の背中 ルール

第一逃 ルール

月の背中・A面(第1話)

東亰チキン

 ろくでもない暮らしはいつまで続くのか。思いどおりに生きたい。そう思っても、おれにはしょせん無理な話。そんなことができる年になるまで、あと三年半もある。わかっちゃいる。わかっちゃいるがそれでもなんとかしたい。今をどうにかしたい。ここじゃないどこかへ行きたい。顎を動かしながら考える──なにも思いつけないおれの脳みそ。

 この世にはくだらないやつが多すぎる。おれも含めて。

タグ: #ハードボイルド #ロードムービー #一人称 #吉野家 #小学生 #散文 #昭和

小説

22,980文字

 

あの野郎

 
 
「なんだ、これ……」
「体育の授業かなんかだろ」
「……ちがうよ」
「あ? でもまあ、別になんでもいいだろ。誰か写ってんのか?」
 
 写ってるなんてもんじゃない。ボクは息をどう吸って吐けばいいのかわからなくなった。
 
「なんなんだよ、これ!」
 
 思わず怒鳴った。怒鳴らずにいられなかった。
 
「でけえ声出すなよ! 表に聞こえたらどうすんだ!」
 
 押し殺した声でがなられた。そんなことはわかっている。
 
「ふざけんな!」
「だから声を落とせ。気づかれる」
 
 頭の上から降ってきた文句。黙れ! 人の気も知らないで!――思うように動いてくれない舌と口のせいでちゃんとした言葉にならない声。喉だけを震わし続けた。そうしながら、あり得ない写真を床へ叩きつけた。
 
「黙れよ、おい。どうしたんだ!」
「ママだよ、これ!」
 
 沢村さわむらが腰を落としてのぞきこんでくる。だめだ。こんなの誰にも見せられない。軍手をはめた手でママをとっさに隠す。意味がわからないといわれた。そんなの、ボクだって同じだ。
 
「ちくしょう……あの野郎、ぶっ殺してやる!」
「落ち着け! あの野郎って誰だ!」
 
 この世のどこかに銀*001河鉄道があると信じているわりには想像力の足りない沢村。両脇の下へ腕を差しこまれた――いらっときた。
 
「とにかく逃げるぞ。お前の声で誰かが一一〇番するかもしれない」
 
 いらいら・・・・がいらいら・・・・を呼ぶ――そんなの知ったことじゃない。一一〇番がなんだ。関係ない。自分のことしか考えていない沢村にボクはいい返す。
 
「いいよ! おまわりでも誰でも来ればいい!」
 
 椅子を蹴った。写真を叩き散らした――ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!
 
「よかねえよ! せっかくの苦労が水の泡になっちまうじゃねえか!」
 
 背中を叩かれた――怒りがめ*002ちゃんこになった。セットした覚えのない時間を巾着きんちやくのなかから知らせてくるゲームウォッチ。なめている。おちょくっている。どいつもこいつもボクのことを馬鹿にしている。ふざけるな!
 
「こんなに頭にきたのははじめてだ! あいつ、絶対ぶっ殺してやる!」
 
 沢村の腕を振り解ほどく――解けない。そのままでたらめに体を動かした。
 
「ちくしょう!」
「いいかげんにしろ!」
 
 怒鳴って怒鳴り返された。ゲームウォッチも電子の音で負けじと叫ぶ。どうでもよかった。この計画が、旅が、沢村との仲がどうなろうが知ったことじゃない。ボクの目的は変わった。なんとしてもあいつを殺――
 
「お前だけの――」
 
 景色がまわる。同時に顔のどこかが熱くなった。
 
「ものごとじゃねえんだぞ!」
 
 突然切り替わる心のスイッチ――怒りから悲しみへ。黒い景色がぼやけてにじむ。電子の音だけが闇のなかを泳ぎまわっていた。
 
「沢村……」
 
 震える体。軋む心。膝から下の力がいきなりゼロになる。床へ膝を突く前に体を支えられ、それから引きずられた。
 
「沢村、ボク――」
「わけは後で聞く。急ごう」
 
 頭をしゃきっとさせる。足腰に力をこめる。ボクたちは来たときの何倍ものスピードで闇色の職員室を飛びだした。

© 2017 東亰チキン ( 2017年1月7日公開 )

作品集『月の背中・A面』第1話 (全12話)

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