感情の干渉

十卡一

小説

1,232文字

人々の感情が一定量を超えた時に起きる現象、 『愚現』。
愚現が起きた時、 人の心からは妖が生まれる。

 

人間の感情というものは、 人それぞれであり、 定量というものもそれぞれだ。

故に、 自分が思っていた以上に相手は傷付くこともあり、 またその逆もある。

そして、 感情の爆発が起きた時、 人の心からは妖が生まれる。

しかしこの妖は一般には認識されない。異形の存在故に。

だが、 確かに存在する。

 

---この少年は、 そんな異形の存在を抹消すべく生まれた家系、『祟眼たたりめ』の家系だ。

通常では、 高校生として生活している彼、『祟眼 狩楽かるら』は、 生まれながら自らに背負わされた使命、 妖退治が嫌いだった。

全ての妖が害を成す訳では無い。

生んだ人間の感情度量に左右され、 妖たちの能力は決まる。

「ふぁ〜あ、 ねみぃ、 だりぃ」

何色にも交わらない黒髪を風に撫でられながら、 異形の存在を認識することのできる紅の瞳を、 ぎりぎり開いている。

「早く行かねぇと遅刻してしまいやすぜ? 兄貴」

狩楽の隣で、 ふよふよと浮遊している狐のような生き物も、 異形の存在である。

真っ黒な毛並に赤色の呪印が施されているこの妖は、 狩楽の使い魔の『迦楼羅カルラ』だ。

祟眼一族は、 生まれたその時に、 使い魔が召喚される。

そして、 その使い魔と契約するに当たり、 名前で縛るのだ。

なので、 狩楽の名を継ぎ、 迦楼羅となった。

「……んなこと言われたってよぉ」

大きな欠伸あくびをしながら、 急ぐ素振りは見せない。

「なぁ〜、 迦楼羅ぁ……乗せてくれよ」

「ダメですぜ! いつまでも甘やかしてたらあっしがカミさんに叱られるんですから……」

何か嫌な事でも思い出したのか、 毛並がブルブルと震えている。

「母さんなんて気にしてちゃあ何も出来やしねぇ……」

と、 言いつつも、 二度と言わない所では、 やはり狩楽も恐怖していた。

「……兄貴」

突如として迦楼羅が、 真剣な声音になる。

「わーってるよ」

狩楽本人も、 それの存在に気付いていた。

それ。

異形。

何もなかった空間にぐにゅぐにゅと黒い霧のようなものが一つの形となっていく。

雑種ザコか」

小さな妖ひとつひとつが束になって、 一つの異形となる存在のことを、 彼等はそう呼ぶ。

力はなく、 勝手に消えることも暫しある。

「喰っていいぞ」

「いただきやす!」

形を成す前に、 迦楼羅がその霧の塊に牙を立てる。

「もぐもぐ……」

使い魔は、 妖を喰らう事に魔力は上がっていくが、 流石に雑種を喰らっても上がりはしない。

空腹が満たされる程度だろう。

「……さっさと行くぞ、 ホントに遅刻しちまう…………いや、 妖が出たとなるとしょうがないのではないか……?」

悪知恵を働かせていると、 不意に後ろから声をかけられる。

「貴方達、 早くしないと遅刻するわよ?」

「ん、 お、おう……」

知らない人から声をかけられ、 戸惑う狩楽。 だが、 異変にはすぐに気付く。

「……貴方…………達?」

2016年8月9日公開

© 2016 十卡一

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