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駆ける私は梯子と共に

文豆一郎

いいこと? その梯子はどこにもいけないためにあるの。

小説

7,578文字

私はとってもいけないことをするために父の本棚を漁る。いけないものを探すために道具のカタログを読み耽る。いかにもおじさん好きのする作業道具の中から、一脚の梯子が目につく。たった八十センチ。二本の縦木に、足場の平たい横木は三本だけ。小振りだけれども、ウォールナットの無垢で頑丈。素晴らしいものをありがとう。私は即座に電話を手にし、通販で衝動買いする。送料含み、六万円也。

 

三日後の朝。私のための梯子が届く。小脇に抱えて鏡の前へ。レディメイドとは思えないほどによく似合う。背の低い私にぴったり。まるで生き別れの弟のよう。あまりにしっくりとくるので、かばんの代わりに梯子を背負って学校へ行く。ぎりぎりで私は間に合う。梯子を廊下側から教室の窓にかけてみる。足場を登ると、級友たちが私を見ている。やぁやぁ、おはよう。そのまま窓から侵入したものか悩む。この教室は入口から歩いて入れるから窓から入ってもよいのだけれど、梯子を尊ぶ私は俗な役目を与えない。きっかりと八時三十一分に入室して私は遅刻する。選択を迷った私は、この一分を誇りに思う。着席し、かばんを持っていない私は教科書もノートもないので勉強ができない。やることがないので帰る。二分ぶりに廊下と私は出会う。やぁやぁ、さようなら。入口の脇にはセグウェイがある。お金持ちのユウキ君が乗りつけてきたものだ。私は私の倫理観の許す限りのちょっぴりだけ、彼のセグウェイを失敬する。背中の梯子と前面のセグウェイで盤石な私は、肩で風を切って廊下を突き抜ける。揚々と進む私は隣のとなりのクラスの窓を覗く。不愛想で大柄なゴウ君と私は目が合う。武骨な見た目に似合わず、彼は生徒会長。私の妄想の食指が彼を蝕んでいく。計画では、こうだ。哀れなゴウ君は、仰向けで宙づりにされている。一糸纏わぬ姿の彼は、手首、足首に手錠をかけられている。下半身は両太ももがワイヤーで吊るされている。上半身には、こんもりと盛り上がった胸毛。その奥にある、可愛い可愛いピンク色の両乳首をピンチで摘ままれ、彼の半身は吊るされている。いっそ太ももじゃなくて大事なところを吊るしてもらえばひと思いなのに——そう願っているのは、彼の哀願するような眼を見ればすぐに分かる。請うような視線が素晴らしい。潤んだ瞳で、切ない。この眼をもっと際立たせるために、口にテープを貼らなくちゃ。彼に言葉は似合わないから。そうだ、とびきり大きいマスキングテープがいい。ガムテープよりも大きいサイズの。それも、五才の男の子がお母さんにねだるような柄。恐竜や稲妻、車や戦隊もの。無いから探してあげないと。我に返った私は、床に水平になる程に体を傾けている。セグウェイは最高速度でゆっくり爆走している。廊下奥の壁に激突した私はひっくり返って天井を見上げる。セグウェイなんか乗ってる場合じゃない! 私は梯子を小脇に抱えて走る。長い後ろ髪をなびかせながら、私は走って、駆け抜ける。

 

学校を飛び出した私は財布すら持たないことに気づいてマスキングテープを買えない。工面しなくては。往来をゆく私の向かいから男の子が一人、すれ違う。あどけない——それにしても、あざといくらいに可愛くって、こんなのいじめてもつまんなさそうな——顔をした中学生くらいの男の子。私に弟がいれば、きっとこんな感じ。忙しそうに、彼も小脇に梯子を抱えて走る。思わぬところで同士を見つけた私は興味しんしん。ショートパンツにまるでぷっくりとした脚をばたつかせて、どこに行くの。どうせ痴肉にありつく魂胆でしょう。踵を返した私はやはり梯子を小脇に抱えて追いかける。梯子姉弟は同じ歩幅で行きまくる。うらぶれた家屋の前で彼は足を止める。そこは一丁前にも庭と犬小屋は備えているのに、予算が足りなくて扉がない。犬小屋のマルチーズを彼はあしらう。こなれた様子で庭を進む。扉のない家には高い窓があり、彼はそこへ梯子をかける。私はわきまえて欲しいのに、彼は案の定そのまま窓から侵入する。はぁ。これだからお年頃は。いいこと? その梯子はどこにもいけないためにあるの。分別をつけなくちゃだめ。あきれた私は、彼を追って庭に侵入する。マルチーズと目が合う。週間少年こいぬパンチを購読している私はどんな犬でも操れる。指でチャクラを練ってから私は手を差し伸べる。噛まれる。「こいパ」の嘘つき。読むのは止めだ。息も絶え絶え、私は件の窓へたどり着く。彼の梯子を私は丹念に一旦外して、自分の梯子をかけ直す。横木を登って窓を覗くと、仄暗い部屋に男女が二人。部屋の主は艶やかな女で、向かいにはやはりさっきの少年。それ見たことか、密会だ。甘ったるいスカートを履いている彼女は、大事そうに二体の人形を抱く。そして秘密めいた裸電球の下、おでこでキスをする彼ら。女は愛の言葉を囁き、男の子は忌憚なき祝福を浴びる。なんだか私は夜そのものを観ている気持ちになり、塩辛いポップコーンとコーラが無性に欲しくなる。ここは小さな映画館ですか。これからちょくちょくお邪魔しよう。だなんて浮ついていると、私は気づいてしまう。人形に見えたそれらは、彼女の生きた両親なのだ。愛娘の腕の中で怯えながら、彼女の呪詛を浴びている。聞き耳を立てる私。どうやら、型に嵌まった振る舞いをお仕着せられてきた半生に、彼女は恨み言があるみたい。小人の両親は解放され、少し離れて正座する。見つめる先には、妖艶な娘と美少年が向き合っている。——パパとママに、本当の子作りを教えてあげる。その声で、娘が男であることに気づく。彼は言いながら、美少年の膝に指を這わせる。私は息を呑む。——お姉さんもいかが? 張り出した喉仏で、彼は一瞥もくれずに言う。私は存在を暴かれる。傍観者ではいられず、かといって役柄も持たない私はこの映画には居場所がない。いたたまれずに、梯子を降りる。右脇に自分の梯子、左脇に男の子の梯子を抱えて私は逃げ出す。いずれにせよ、あの男の子は使い方を誤っているのだ。工面させてもらおう。私は近くのコンビニで彼の梯子を売る。千八百円也。私はここで気づく。これじゃ男の子が、あの窓から帰れない。ハサミを私は買い求める。急いで扉のない家屋へ戻り、梯子で窓までよじ登る。私は自分の後ろ髪を切ってしまう。髪を束ね、窓のクレセント錠に引っ掛ける。これでよし。窓の中では、小さな両親が倅に性教育を受けている。この家はミニシアターでありラプンツェルの塔でもある。ささやかな罪を贖って私は梯子と走り出す。

 

駆ける私の鼻腔をくすぐる香りで私は腕時計を見る。もう十二時前。炭火の香りに誘われる私は通りの左側にある焼き鳥屋の前にいる。私は店に入らず、例の梯子で厨房の窓を覗く。目と鼻の距離に店主の顔面。親父、いつものやつをくれぃ。なけなしの金で、私は一本の串に賭ける。皮、肝、葱、ヤ!、身、身、身。七つの具材が刺さっているとっておきの一品。一つひとつの具材が大きくて、これさえあれば生き返るよう。舌鼓を打つ私は小銭を置いて梯子を降りる。四百八十円也。

 

タレのついた指をぺろぺろぺろぺろ舐める私は駆けながら。いまはとにかく、マスキングテープだ。お金はあるのに、気ばかり逸る。柄が決まらない。ゴウ君に似合ったものを。スクラップ工場の前を私は通る。クレーンで吊るされた廃車が気になる。朽ち果てたクロスカントリーの中に、山男のゴウ君を私は見ている。うなだれる巨漢こそ、いじめ甲斐がある。大きな乗用車は男の官能を想起させる。なのに四トントラックともなると、それは建造物を私に連想させる。この境を分けるものは、何。わからなくて、私は大学に進学したときの卒論として謎を保留する。テープを買うため、私は文房具屋を目指す。そうだ、自動車の柄にしよう。とっても可愛い、おむすびみたいなシルエットのセダン。私は近道のために走りながらも面舵一杯、路地裏へ。向かい側からカラスのような集団が来る。彼らは葬儀帰りの一族。全身を黒ずくめの喪服に包んでいる。しまった。深緑のブレザーを羽織った私は、あまりにも場違い。ふさわしい対比のために、白で身なりを洒落込めばよかった。後悔しながら進む私と、一族の距離は近づいていく。彼らの顔には人格が宿っていませんように。そう願いながら私は彼らとすれ違う。私と彼らが他人であることを許さないほどに狭いこの路地裏は、我々に一度限りの会釈を強いる。一回こっきりだ。勇気を振り絞る。頭を上げると、誰一人として彼らの瞳は潤んでいない。私は胸を締め付けられる。こんなことなら、もらい泣きしたほうがまし。彼らの心が動いていないことに余計、私は心を搔き乱される。近道の代償が高くついていると、往来に出てから私は認める。

 

文房具屋、到来。もとい、私が着く。ここはスーパーや百円均一の店などが織りなす複合施設の二階。あのテナントに、ゴウ君のマスキングテープがある。梯子を抱いて駈ける私は突然カーブを描いてトイレへ。そう、もよおしてから実は随分経っている。個室トイレになだれ込む私。便座にかけながら、右側すぐ目の前にあるベビーチェアに意識が移る。親が用を足す間、二歳くらいまでの子供を座らせておく椅子に私は思いを馳せる。生まれるはずだったわたしの弟が、ここに座っている。待ち望まれる間の十ヶ月、彼が生まれたら一緒にやりたい遊びを私は空想する。家族の一員になれなかった彼は、私のイマジナリーフレンドとして今を生きる。この世界にたどり着けなかった代わりに、私の視界のキャンバスで重力を無視し彼は闊歩する。回想と妄想の狭間を踊る弟を眺める私に、邪魔者が入る。見知らぬおばさんがトイレをよじ登り、唐突に私の個室へ降ってくる。異様に体が細い彼女はすっぽりとベビーチェアに座ってしまう。忘れ物を取りに来たらしく、見ると併設されている壁掛け式の棚に一本の瓶がある。中には輪切りにされたシナモンスティックがあり、噛むことで体内を浄化する作用があるらしい。細い身体が自慢なようで、ベビーチェアに座れてしまったことを得意げに語っているが顔は四角くて岩のように大きい。あまりに均整がとれていなくて、背骨ごと引っこ抜かれた生首を私は連想する。五十代後半くらいだろうか。彼女はヨガに通じていて、私の眼の前でその魅力を滔々と語る。私は用を足しながら、おばさんの話を十分以上聞き続ける。人見知りだからこういう空間は苦手だ。だけれど彼女の弁舌には強い意思が宿っており、私はおばさんを他人とは思えなくなる。最近のおばさんときたら、作っている料理をいきなり予定変更するのがマイブームらしい。例えば肉じゃがを完成させる間近で急遽、ルーを入れてカレーだと主張するような。これは作りはじめではなく、出来上がりかけでやる方が格好良い。小さい頃はF1レーサーになりたかったとおばさんは恥ずかしげに語り、夢は叶っているよと私は言う。二個目のシナモンをかじりながらすっかりシナモン臭くなったおばさんに私はレシピを教わる。本邦初公開、おばさんのカレーの作り方はこうだ……。

 

・豚肉 細切れで二百グラム
・じゃがいも 四個
・しらたき 後で食べるときになんでカレーにするのならしらたきをこんなに入れてしまったのだろうと後悔するくらいの量
・にんじん 一本
・玉ねぎ 二個
・醤油、みりん、酒 適量
・カレールー 二欠片

 

以上は二人前のレシピだ。おばさんは独身で一人暮らしだから、その日と次の日の自分の分しか要らない。私は食欲をそそれらながら突如としてゴウ君を思い出す。こうしちゃ居られない。おいとましますと私は彼女に言いながら、トイレのドアを開けて出る。おばさんはベビーチェアが気に入ったらしく、このまま瞑想するつもりらしい。扉を閉めたと同時に、私は空想上の弟との悠遠なひとときを邪魔されたことを思い出す。おばさん自身は嫌いじゃないが、それとこれとは別の私は怒りの感情が湧き上がる。梯子をドアにかけてよじ登り、私だってここから入れるんですよと個室の上からおばさんと張り合う。彼女はマントラを唱えながら、私にウインクする。梯子を抱えて走る私は、自分で自分が嫌になる。聖なる梯子を、諍いの道具にするなんて。急ぐ私はぴたりと止まる。三マス戻る。一、二、三歩。人生はすごろくだ。駄目なことが起きると、時々こうする。子供の頃から、決めている秘め事。

 

罪を滅ぼして私は文房具屋に突入する。マスキングテープはどこですか。ここですか。あったが小さい。普通のやつだ。店員さんに聞くと、レジ横に猥褻物陳列棚というのがあり、そこに大きなテープを置いているらしい。どこどこ。見つけた。ようやくあった。幅が五センチの、特大マスキングテープ。それも、まんまるの赤ちゃんみたいなセダンの柄。たいそう気に入る私は有り金をはたく。毎度あり。ゴウ君のために購入する。

 

日が暮れはじめているのを、店から出た私はその陽射しで知る。ゴウ君の家に行こう。そろそろ足首が痛いのだけれど梯子のためには駆けないと。歩きながら小脇に梯子を抱えてるなんて、間抜けもいいとこ。道中で気になる倉庫を私は発見する。壁面は何の変哲もなく、屋上から小さな梯子が降りている。だけどもそれは三段しかなく、以降は途切れている。本気で登るのであれば、長い梯子を用意するしかない。自分の梯子となんだか対に思えた私は、その梯子の下に行く。壁面に自分の梯子をかけて、よじ登る。当然、届くはずもなく。上の梯子から野良猫が覗き込んでくる。屋上にいたのだろう。目が合う一人と一匹。この町を自由にパルクールできるこの子に私は会えなかった弟を見る。私の梯子は、どこにも行けない。もしもどこかに行けるのならば、それは弟のためにとっておきたい。そんな希望は叶わぬままに私の中で澱に沈み、いつかもし子供が生まれたときにまた浮かぶのだろう。風が吹き、無くなったはずの私の長い髪が宙に翻る。陽が沈む。野良猫の顔が逆光で黒く染まる。逢魔が時とはよくいったもので、影だけになった猫は今にも化けそうな気がしてくる。この夕焼けを小焼けにしているのはあなた? 猫の神通力で、空は茜色に染まる。ぷいと野良猫は引っ込んでいく。屋上に登れないまま、私は梯子を小脇に走りだす。

 

そんなこんなで夜が来た。走りにはしって、やっとのこさで私はゴウ君の家へ。彼の家は丘にあるから坂が大変だ。私は呼び鈴を鳴らさず裏庭へ回る。やはり私は梯子と壁に掛け、窓から部屋を覗き込む。ここはリビングになっている。ソファに腰掛けるゴウ君を発見。他の家族はいないみたい。コンコンと私は窓をノックする。私に気付いた彼は、七面倒くさそうに窓を開ける。会長のためにマスキングテープを買ったよ。と興奮しながら私はテープを十センチほどちぎり取る。私はそれをゴウ君に奪われ、私自身の口元に貼りつけられる。——サトリさん、次は玄関からお願いします。とだけ言い残すゴウ君は窓をぴしゃりと閉めていく。一本取られてしまった私は梯子の上に立ち尽くす。私は妄想のなかで何度もゴウ君に立ち向かう。健闘むなしく、その都度返り討ちにされ丸っこい梅おにぎりに私はなる。こうなってしまっては、もう駄目。ゴウ君を頭の中で嬲るつもりが形勢逆転してしまう。まんまるセダンを口に貼られた私は、きっと滑稽なほどに似合っているのだろう。やがてゴウ君のお父さんとお母さんがリビングにやってきてコーヒーを飲む。私を横目に彼らは談話する。ゴウ、あの子は? 学校の可哀想な子。放っといていいの? 大丈夫。なんてやりとりがきっとなされているのを私は想像しながら一家団欒を眺めている。私はここでも心地よき傍観者であり、今日の終わりを飾るにふさわしいエンドロールの観客でもある。私はゴウ君の言葉を思い出す。次は玄関からお願いします、と確かに彼は言う。段取りを踏めば、このお茶会に加わる権利が私にあるのだろうか。当事者になりかける私は驚いて梯子から転げ落ちる。またもや私は梯子を抱えて走り去る。

 

そのまま丘を登り続けて、自然公園の誰もいないテラスにまで来る。町が一望できるほどの丘で、夜空の星と電灯が美しく光る。私はとってもくたびれて、大樹のふもとに寄りかかる。梯子も一緒にもたれさせる。私は一息ついてから、まんまるセダンのマスキングテープを梯子の上段左に置く。おつかれさま。梯子を登るのは、今日でおしまい。こんな風にして、明日からは私の宝物置き場になる。一段あたり、三個までかな。三段あるから、九つの宝物を置ける。何を置こうか。家にあったものを私は思い出す。トリナクリアのカフス。蚕のためのドームハウス。あらすじ以降が白紙の豆本冒険譚。テトラポッドの箸置き。質屋で買ったアキトとカナの結婚指輪。ナンプラーの石鹸。貝柱の化石。きっといたはずの弟の肖像画。まだまだあるけど、これで八つ。最後にぴったりなものを私は考える。おばさんに倣って、お気に入りのスパイスを小瓶に入れるのは? その前にスパイスを決めなきゃならない。カルダモン、クローブ、八角、悩ましい。どうにもしっくりこない気がして次第に私は息苦しくなる。それもそのはず、ゴウ君に貼られたマスキングテープがそのままだ。私は口からテープを剥がし、丘の上で深呼吸する。とても気持ちがいい。にわかに、ワイヤーとピンチで吊られたゴウ君が私の脳裏をかすめていく。まるで呪いが解かれたように、はたまた私は妄想の海に沈み込む。彼の乳首に私の意識は集中する。ゴウ君のためにニップルカバーをあてがってあげよう。ほらほら、こんなになっちゃって。お父さんとお母さんに見られたら、なんて言うだろうね。ゴウ、この乳首は? あの可哀想な子に貼られた。そんな趣味があったの? そんなんじゃない。なんてやりとりがきっとなされているのを私は想像しながら笑っている。ここで私はミスを犯しているのに気づく。いまのゴウ君は、天井から伸びたワイヤーのピンチで長いことずっと乳首を引っ張られている。ということは、彼の乳首の先端は細く、長く伸びているのだ。彼に必要なのは、ニップルカバーじゃない。哺乳瓶の先っちょだ。それも、ゴウ君の形のために、細長いのをオーダーメイドする。私はその逆T字型の先っちょを想像して頭が爆発しそうになる。九つ目の宝物としてこれは完璧。思考が弾ける私は勢いづいて仰向けになる。丘から見える夜空は綺麗だ。まるで絵本に出てくるような三日月を、私の弟が滑り台にして遊んでいる。私はこの町から一歩も出ずに何も得ぬまま全てを手にする。

© 2026 文豆一郎 ( 2026年8月8日公開

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"駆ける私は梯子と共に"へのコメント 2

  • 編集長 | 2026-08-08 21:02

    シュールな作風ですが、破滅派らしからぬ清涼感があってよかったです。イラストもかわいいですね。

    • 投稿者 | 2026-08-08 22:27

      お読みいただきまして、ありがとうございます。果たして破滅派にふさわしいのだろうか、と逡巡しつつも主人公には我が道を突っ走ってもらいました。元々絵描きだったもので、表紙絵は自前でこしらえています。

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