庭に繁るオキナワスズメウリ。小さな実をつけるそれはとても奇妙な形をしていた。まるで、人の形のような――。
翅に刻まれた符号は、百年前から、あなたを待っていた。
ゲンロン大森望SF創作講座の打ち上げ参加後、始発の電車に乗るため五反田から品川まで歩いたときに思いつきました。2026年7月合評会参加作品
友人の死の知らせを受けた私は葬儀に出席するために旅立つ。私は友人の葬儀で不思議なものを見た。 ※2020年にネットプリント配信した作品です。当時、お手に取ってくださった皆様、ありがとう…
私はある日、露天商からひとつの卵を買った。それは天使の卵だと云う。私は半信半疑で露天商の云う通り、三日三晩、卵を月光に晒した。すると卵から美しい天使が孵った。私はその天使と奇妙でいて穏やかな同居…
染色の刻は、夜半に訪れた。 海鳴りは風の息のやうに低く唸り、満ち潮の飛沫が小屋の羽目板を濡らす中、青玄は生成りの麻布を三尺ばかり切り揃へ、水槽に浸して固く絞つた。糊気を抜き、繊維の奥まで潮気…
「落□とは、消えるこ□では――」短篇集『落丁』カットアップ・リミックス
千鶴が小屋に棲みつきしより、染物小屋の空気には、奇異なる凪が訪れた。 朝、引き潮の瀬戸より吹き込む風は、岩肌を削るやうに冷たく湿つてゐたが、千鶴はその風の中を物音も立てずに歩み、浜に打ち上げ…
春風は嚔をした。 還り埃に塗れ燃ゆる。幻想掌編。
康暦の世の、秋のことなり。 周防の国より長門の奥処へと、ただ独り草鞋の緒を締め直して巡礼の歩みを運ばせし僧・浄雲は、赤間関の荒れ果てたる浦にて、奇異なる裂を見たり。 その日は朝より陰欝なる…
満ちては引き、引いては満ちる。その中に、いずれ等しく紛れ込んでいく。
始祖の顔は、誰の顔でもない。欠けた頁は、消えたのではない。
代々の記帳者は、誰に言われるでもなく、同じ場所を、空けてきた。
日誌は、正しい。ただ、数えるたびに、誰かが足りない。
深い霧の夜。誰かが私の後をつけて来る――。
土蔵の隙間より、白み始めたる朝の光が、埃の舞ふ闇を細長く射し貫いてゐた。 行燈の油はとくに尽き果て、芯の先が白煙を上げて燻る中、浄雲は膝の上に広げたる草紙の、最後の頁をそつと閉じた。 指先…
色は、痛みに似たり。 青玄の眼には、物心つきたる頃より、この世の凡百の事象が、過ちの如き鮮やかさをもつて映じてゐた。常人の眼が形を捉へ、光を分かつに留まるべきところを、青玄の瞳は、万象の底に…
もしもし、こちら交換。――あなたは、まだそこにいますか。
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