鼻腔を擽る甘く不純な香り。 昨晩の温もりを落とした私が向かう先は、暗闇。 煙は路に、ただ辿る先に花は此方を見る。
何十年勤めて、一枚。誰もが、自分の書いたものを、自分の手で切り落としていた。
沈む刻は、静寂そのものであつた。 千鶴の細き両腕に抱き抱へられ、無垢の白麻の反物を幾重にも身に纏ひたる青玄は、三番目の大甕の縁に、ゆつくりとその身を預けた。 胸の裂け目より溢れ出づる黄金色…
突風は、染物小屋の羽目板を紙風船のやうに震はせ、関の瀬戸の荒れ狂ふ潮飛沫を、容赦なく土間へと吹き散らした。 吹き飛んだ蔀戸の開口部より、夜の海が黒々と口を開けて覗いてゐる。壇ノ浦の早瀬は白き…
夏至を過ぎたる頃より、青玄の肉体は、決定的なる崩壊と変容の坂を転がり落ち始めた。 朝、井戸端に立ちて手桶の水を掬ひ、己の顔を映したる青玄は、そこに立ち現れたる異形を凝視して立ち竦んだ。 両…
今、その影は、誰に一番近づいているのだろう。
委、応、帳、録、目――これらの字だけが、消えていく。
別れた恋人が置いていったハエトリソウを育てる「私」が奇妙な体験をする話。ややグロテスクな描写を含みます。 ペーパーウェル14( テーマ「欠片」)に参加した作品です。お手に取ってくださった方、あ…
もしもし――その一言だけが、機の合間に、こぼれ落ちる。
老女は過去に愛した人を懐かしく思い出す。あの人は今、何処にいるのか。残された生が尽きる前に一目会いたいと切望する彼女の前に現れたのは――。
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