超短編小説「猫角家の人々」その11
「確かに、ボケちゃって成年後見人が必要だと家庭裁判所が認めるケースは、90過ぎた婆さんとかだけれど、90過ぎると新たに加入できる保険なんてないんじゃないの?」
「えーとね、最近は保険業界も過当競争で、加入年齢の上限を上げた保険商品を次々出しているわけ。だから、90歳までは、現実に新規加入可能みたいよ。それに、既に加入している生命保険の中途増額制度っていうのがあるわけ。」
「ああ、知っている。定期保険特約やらを上乗せすることで、死亡保険金を増額する制度だね。これなら、90過ぎても死亡時保険金をたっぷり膨らませて一儲けできるかな。」
「まあ、一番美味しいのは、適当にダミー会社の役員にして、死んでもらって、会社が経営者保険をたっぷり受け取る手口かな。外資系の無解約返戻金型定期保険なんて言うのは、満了年齢の上限が90歳で、死亡時一口3000万円が受け取れる。まあ、日本の経営者の平均年齢が60歳を超えて過去最高となってるわけで、社長が在職中に亡くなるケースが増えている。企業としても、社長が死んだら、借入金の清算とか運転資金、自社株買い取り資金、死亡退職金とか、いろいろ出費があるわけで。そういうコストをカバーするための保険だから、結構、保険買う側に有利になっている。月8万の保険料を払っても、1年ちょっと後に死んでもらえれば、かなり実入りがある。丸儲けだな。それに何しろ社長だから、複数口の保険を掛けて億単位の保険金を受け取っても疑われないしね。」
「会社で死亡時保険金を受け取って、ちょっと後に会社を清算してしまえばいいしね。」
猫角姉妹の保険金詐欺談議に拍車がかかる。
現在の保険商品には様々なものがあり、保険金詐欺に適した商品も多々ある。だから、どこの会社のどの商品を採用すべきか、組み合わせるべきか判断できる犯罪仲間がいないとどうにもならない。また、どこの保険会社が、審査が甘くて、しかも、保険金の支払いがいいかなど、業界事情も知らなくてはならない。従って、保険商品の内容を熟知した専門家がそばに居てくれないと、「このカモには、どんな保険商品をつけたらいいのか?」の判断がつかない。どこかに生命保険業界20年の経験があり、しかも、婆さん殺して金にする荒業に平気で協力するような「センセイ」はいないのか?
いるいる。大先生がいる。(続く)
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