超短編小説「猫角家の人々」その6
火の車のネコネコハウスである。
厚労省がらみの助成金は、パートタイマーの雇用、正社員転換制度の実施、健康診断の実施といったひとりあたり3-40万円の少額のものまで申請し受給する。だが、実は、従業員など殆ど雇っていないし、募集してもネコネコハウスなんかに来る人はいない。勿論、客もろくに来ないが。
九州厚生局に目をつけられて監査が入る前に、やばくなったネコネコハウス支店は店じまいする。監査逃れが閉鎖の理由かというとそれだけではない。あらかた、使える助成金は全て受給してしまったのだ。ネコネコハウス支店を存続させても、経費が出ていくだけなのだ。
あらたなネコネコハウス支店を別住所ででっち上げる。マンションの一室を借りて営業していることにするが、事業の実態はない。不動産を全く借りずに架空の住所で始めた支店すらある。例のリース機器を新しい支店に持ち込んで、福祉機器をまた購入したことにする。300万円の助成金を詐取する。新規に老人やシングルマザーを雇用したことにする。助成金を手に入れる。これを繰り返す。ネコネコハウスの支店が10店舗にまで増えていく。だが、同時に、廃止する支店も増えていく。平均して3年で、閉鎖する。九州厚生局の管轄ばかりでは、目をつけられる。京都でもインチキ事業の展開を偽装する。こっちは、近畿厚生局の管轄となるので、しばらくの間は、やりたい放題できる。
介護報酬の不正請求、助成金詐取が、ネコネコハウスの主たる収入源である。全然足りない。FXで億に近い欠損を出した蜜子は、抜本的な一攫千金策を模索する。パワハラで追い出した65歳の従業員の背中を思い出す。列車の到着を待つプラットホームで、背中をちょっと押してやれば、あの婆さんは、あの世に行ける。どうせ生きていても誰も喜ばない。だったら、お金を作るネタになって死んだ方が人に喜ばれるじゃないか。人の命を金に換える算段を始める蜜子。(続く)
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