まずは、読者への挑戦状までに明らかになったことを列挙しよう。
・リーズ博士宅に来ていた謎の訪問者はクロード
・クロードは「患者C」として訪問していたことはない? ミセス・ターナーは謎の訪問者の顔を知らなかった
・クロードは「不倫を隠し通そうとして必死」「ある種の二重生活を貫こうと懸命」 ※「遁走状態」との関係は? 探偵役のスペクターによれば殺害事件には関係ない?
・失踪したエドガー・シモンズの顔(写真)もミセス・ターナーは知らない
・クロードが立ち去った時点ではリーズ博士は生きていた。ボウマンが見た二人目の男はクロードを尾行していた調査員のブレイブズ?
・足跡を残したのはボウマン?
・ボウマンは事件前後にはリーズ博士の自宅近くにいて車から様子を見ていた
・『誕生』を盗んだのはリディア。盗癖があることを知っていたデラに濡れ衣を着せるため 今どこにあるかは不明
・アパートの裏庭-路地に落ちていたのは回転式拳銃
・回転式拳銃を作中所持していたと明記されているのはステインハウスとクロード?(拳銃を購入したらしい描写しかない)
・ミセス・ターナーの供述によっている事実が多いが、意外と信頼できないのではないかという警部補の言葉に対して探偵役のスペクターがそうではないと言っているので、信頼できるものと考える。
さて、デラと幼なじみとされているステインハウスだが、歳が離れすぎているように思える。老境に入ろうとしているリーズ博士よりも年下だが、見かけほど若くないとされる。50歳くらいか? となると、36歳くらいのデラと幼なじみは無理がある。
ステインハウスが「蛇男」ではないか?
蛇男とされているブルーノ・タンツァーは1921年に療養所で死んだ患者にすぎなかったのでは? 一方のステインハウスはウィーンに管弦楽団の仕事で来ていたおりに、リーズ博士の治療を受けていた。そのときの治療の失敗でステインハウスは療養所にいたブルーノを殺害する。リーズ博士は隠蔽工作し、ブルーノを蛇男として、その自殺で事件を片付けた。
ステインハウスの治療は失敗したものの、蛇の悪夢自体は消えた。
蛇の悪夢は「父娘のあいだに不健全で陰湿な結びつきがあることを示唆して」いたらしいが、蛇男の娘はリディアだったのではなかろうか。リーズ博士は蛇男からリディアを切り離し、過去を伏せて自分の娘として育てることにした。
しばらくは平穏な日々が続くが、再び悪夢が発症し出したと聞いて、リーズ博士はイギリスに移住して治療にあたることを決意する。
しかし悪夢は続き、事件のあった12日には「蛇」の悪夢まで復活する。それを電話で聞いて、これまでの試みが無に帰したことに絶望した博士は自殺する。自殺説は凶器の剃刀?が現場にないことがネックとなっていた。
ここでそれを解決するのはデラの盗癖である。この盗癖は理由が無く盗んでしまうというものだ。そして、注意していたリーズ博士の目をかいくぐってライターを盗むなどかなりの早業である。
現場の書斎に入り込むことになったデラは意味もなくグラス1個と凶器の剃刀?をミセス・ターナーに気がつかれないように盗む。ミセス・ターナーは博士の死で動揺していた上、警察に電話したり、フレンチドアに鍵がかかっていることに気を取られたりしているので、その隙に盗むことはデラの早業からして充分可能だろう。また、無くなったメモは血まみれだったであろうカミソリを包むのに使ったのである。
こうして盗んだ物はコートの下に隠せる。現場の書斎から二人は出ており、警察が来るまでの間にデラは盗んだものをさらに家の外にいったん隠したのだろう。
次は発砲事件である。
クロードの「遁走状態」はまるで記憶がなくなって行動してしまうようなので、今で言うところの解離性人格障害だと思われる。単純な症例ではないが、ミステリ的には二重人格のギミックということでいいだろう。なお、他の登場人物との同一人だった可能性だが、一番それっぽいエドガーがすら写真で否定されているので違うのだろう。「患者C」として実際に訪問したことはなく、リーズ博士とは電話で話していた。作中でもミセス・ターナーなら知っているはずとしか言われておらず、実際に患者Cが訪問した記述はないのである。
尾行者におびえていたクロードは拳銃を購入。その後切り替わったもう一つの人格は実は不倫関係のあったデラをつけ回していた(デラはクロードの愛読者ではなく、関係していたことがあったのだ)。反対側の通りにいたクロードは突如我に返る。混乱した彼は、路地から裏庭に行こうとしていたデラの奥にいた怪しくみえるハーパーを見つけて発砲。弾はハーパーをかすめて傷つける。クロードは自分のしでかしたことに驚いて拳銃を路地に投げ入れて逃げる。反対側の通りにいたので警官が駆けつける前に逃げ出すことが出来、誰にも気がつかれなかった。なお、弾道が反対側の通り側からでおかしくないのか分からないが、外れた弾の弾痕などのデータがないので、これでよしとする。
そして、ピート殺害である。
ステインハウスはアパートの自室に戻った後に、5階に階段で上がる。エレベーターを5階に呼び出す。ピートを5階で殺害。5階は空室ばかりなのですぐには発覚しない。エレベーターを4階に下げ、かごの天井にピートの遺体を落とす。
発砲騒動の隙に1階のロイスがエレベーターのかごに入り(このときには警部補らが使って1階に降りてきている)、天井の保守用の落とし戸を開ける。乗っていたピートの遺体を下ろし、落とし戸を元通り閉めて、留め金をかける。守衛室に戻る。ステインハウスとの関係・連携は不明だが、現象面を説明するとなるとそうなるわけだ。
ピートは16歳くらいとのことであり、蛇男事件の1年前くらいに生まれている。蛇男であるステインハウスの息子だったりはしないか? 根拠としては弱いが、ステインハウスは整った容貌をしており、一方のピートも「アメリカの高級ホテルから抜け出てきたかのような」と表現されるくらいなので、服装ばかりでなく整った容貌をしていると思われるので、似た風貌をしているのではないだろうか。
互いに親子とは知らなかったが、近しい間柄を感じ取っていた。だが、それゆえに反発を感じていた。ステインハウスがピートに全くチップをやらなかったり、ピートがそれにかこつけてステインハウスを必要以上に悪く言っているのはそのためである。悪夢と謎の監視者(実際にはデラをつけていたクロード)で限界が来たステインハウスが攻撃衝動を発揮してしまった(悪夢の際に物を相手に投げつけるといったことはしている)わけであるが、それがある意味で己の小さな分身ともいえるピートに向いてしまったのだ。
ピートを殺してしまったステインハウスは、彼の過去を実は知っていたルイス(警察相手に最初は強気に出るなどしているのはステインハウスを守るのが任務になっていたのだろう)に助けを求め、ルイスが前述のようなアシストをすることで、ステインハウスを嫌疑外においたのである。
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