超短編小説「猫角家の人々」その26
真っ黒は、その裏社会工作員の古株であるクラックから、覚醒剤を調達した。そして、それを契機にクラックを介して、晴れて、日本の裏社会へとリクルートされたのである。人間のクズの仲間入り、おめでとう、真っ黒君。真っ黒君は、クラックたちも、他の数多の工作員たちも….誰一人できなかったジャーナリストKの口封じを、組織から命じられ、クスリの勢いのおかげで、「俺だったらできる」と錯覚して、本気になっていく。組織の約束した成功報酬は、真っ黒君のやる気を倍増させたのだ。必要経費の支給も魅力だ。シャブは、当面、無償支給だというではないか。凄い好待遇だ。
だが、シャブを打とうが何を打とうが、うまくいかないことはうまくいかない。Kの口封じなど、全く、実現しない。真っ黒には、次第にKの口封じなど、工作の目的ではなくなってくる。要するに、裏社会の自分への評価を高くすれば、報酬もシャブ支給も増えるのだ。だから、自分たちの功績を派手に印象付けるために、パフォーマンスを行う。あたかも「大成功」したかのように、互いに誉めそやすのだ。「これで、今月のシャブ代は確保した….」と、一息つくのだ。幹部もさらに上層部に報告するのに、誇大な戦果を強調する。叱責を受けないために、大袈裟に、Kにダメージを与えたと強調する。だが、ダメージを与えたなら、何故、Kは黙らないのか?最高幹部は、自分の進退問題となってきたKの存在に、頭を抱える。「アイゴー」と無意識のうちにため息が出る。
中級幹部が懐に持つ手駒は、クラックや真っ黒だけではない。猫角姉妹の自動車保険詐欺を手伝ってきたホース・エイジ自動車修理工場の中華麺社長もまた、同じ、裏社会工作員リングのメンバーなのだ。そして、猫角姉妹は、中華麺社長との交流を通じて、この後、裏社会の様々なメンバーと遭遇することになるのだ。詐欺や人殺しを貫徹するに必要な人材が、裏社会の手で見事に準備されていたのである。
現実論だが、10年以上前にクラックたちがやろうとして失敗した、Kの口封じを、真っ黒風情にできるわけがない。その試みは、惨めな失敗に終わる。それどころか、組織の構成員が次々と暴かれ、ジャンキー集団、保険金殺人集団の全容が表に出てしまう。組織は、ジャーナリストKを潰そうとして、潰すどころか、組織のはらわたを曝け出してしまったのだ。Kを黙らせる目的で始めたことが、裏社会の全容を自ら露呈するという、とんでもなく間抜けな結果を呼び込んでしまったのである。「馬鹿丸出し」という形容では間に合わないほどの馬鹿さ加減である。裏社会の幹部たちは、互いに責任を擦り付け合い、部下に無理難題を押し付けて右往左往している。だが、もはや、裏社会に出来ることはない。半島の北の方の本国に逃げ帰っても、懲罰の極刑が待っているだけだ。
組織の構成員たちは、これから、覚せい剤取締法違反で5年以上も別荘生活をすることになる。そして、金欲しさに保険金殺人に加担していた馬鹿どもは….天井から吊るされるか、刑務所で人生を終えることになるのだ。(続く)
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