超短編小説「猫角家の人々」:その4
だが、やってくる就職希望者が高齢者なら、それはそれで金を生むことができるのだ。
「特定就職困難者雇用開発助成金」なるものがある。60歳以上の高齢者や母子家庭の母などの特定就職困難者を雇用すれば、一人当たり240万円の助成金をネコネコハウスは役所から受け取ることができるのだ。だが、一旦助成金を受け取れば、老人従業員などいても邪魔になるだけだ。さっさと、首にしたい。重い物を運ぶ仕事を押し付け、汚れ仕事をやらせ、パワハラで追い詰める。毎日、薄汚い罵倒句で苦しめる。大概は一週間もしないうちに、腰と心を痛めて、自ら辞めてくれる。
蜜子は、なかなかやめようとしない65歳の新人従業員が必死に働いている後姿を冷ややかに見つめている。そして、はっと顔を上げる。何か、思いついた様子だ。そうだ、団体保険の手があったじゃないのと。65歳新人従業員を金に換える手段を思いついたのだ。だが、その発想の実行は、少し後になる。冷徹で冷酷な計算が、蜜子の脳裏で開始されているのだ。
次に蜜子が目をつけたのが「介護福祉機器等の購入費用」の助成金だ。上限で300万円まで助成を受けられる。だが、本当に機器類を購入してしまえば、300万円など吹き飛んでしまう。そこで、狡賢い手を使う。福祉機器類は、リースで手に入れる。そして、役所の監査が入るまでの短い間だけ、事業所に置いておく。実際には使わないから電源すら入れないままだが。
役所の立ち入り検査は、役所の内部にいる「仲間」からの連絡で事前に分かる。だから、検査に備えて、一時的に施設をできるだけ飾り立てておく。だが、もともと、コストを掛けていないダミー施設だ。建物も築40年のボロボロ平屋だ。役人が見れば、一目でインチキ施設だと分かってしまう。(続く)
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