傑作と前評判が高かった一作であるが、課題部分の第4章までだと、なんかしっくりこない。地下の建築物や地震で出られなくなる、全員が出るには一人残って犠牲にならないといけない、一週間のタイムリミットというのはミステリ的なお約束として許容できるとしても、そこに行く過程や、殺人発生後もほぼそのままなにもせずにいること、作中でもいわれているとおり犯人を見つけたところで後に残る者とできるのかなど違和感が強い。これには全体の構造にかかわる何かがあると思うのだ。
それはさておき、まず気になったのは殺害方法だ。最初と二番目の殺人は不意をついてロープで首を絞めて殺したということになっている。三番目は枝切りばさみで体を突いて殺害している。不意を突かれた被害者が易々と殺されるのはミステリ的なお約束とはいえ、ロープが既に首にかかった状態からならともなく、襲ってロープを首にかけて絞め殺すとなると、体力に格差がないと難しいように思われる。枝切りばさみでの刺殺も体勢的な有利不利があったとはいえ、成人男性の矢崎を一撃で殺しているとなると、相応の力があったように思われる。
となると、犯人候補としては体格の良さそうな男性でジムインストラクターで体力もある隆平ぐらいしかいない。しかしミステリ的には安直だ。
そこで、注目したいのは方舟にいるのは全員で10人だと思われているが、もう一人いたという可能性だ。
闇の中で潜んでいた、あるいは10人が入った後に岩で塞がれる前に帰ってきた(もっと言えば判っている二カ所以外に秘密の出入り口くらいあってもおかしくない建造物である)、という可能性である。この方舟の施設は古さは強調されてはいるものの今でも使える物も多く、まるっきり放置されてきたとは考えにくい。過激派が造り、その後新興宗教団体が使ったという方舟にはまだ利用者がいたのだ。おそらく新興宗教団体の信者の残党だろう。矢崎の妻の弟なのかもしれないし、ひっとしたら裕哉の知り合いなのかもしれない。
某新興宗教団体は終末思想をとなえていたというから、人類最後の砦としてまだ利用する者がいたというわけである。
こうして内部にいたXは、侵入者で一番無防備だった裕哉をまず殺した。次のさやかの殺害は作中でも指摘されているようにスマホの写真に犯人であるXの痕跡が残ってしまったからである。この痕跡というのがXが方舟内で生活していることがよく考えれば判る程度のものだったのだろう(だから、さやかは気がつかなかったし、その反面、Xとしては検討される前に隠蔽する必要があったわけだ)。そうでなければ、サークルの全員がインストールしていたというトランシーバーアプリが絡んでいるのかもしれない。最後の矢崎殺害はナイフの回収の際に待ち構えていた矢崎を返り討ちにしたということで、作中の推理そのままである。
矢崎のスマホの動画には犯人のこれといった特徴はなかったが、ウェーダーを使っていることは写っているから、翔太郎はウェーダーの使用状況からして(詳細はよくわかりませんでした! あとわからんといえば爪切りが持ち出されたのも)、犯人は既存の者たちではなく、Xがいると看破するのである。
こうやって一通り考えみたが、最初の違和感とあいまってどうも作り物めいた感が強い。
そこでます考えたのが、本作は演劇の一種で全員役者がその役割を演じていたというものだ。もっともこれは「僕」の認識で進行しているのにそぐわないし、既に類例もあったはずである。
次に考えたのが、「僕」が意識を没入させることができる推理ゲームを本作の設定で遊んでいる、あるいは緊急状況下での資質を試験されているというものだ。これは最近流行のマーダーミステリの形式を未来の技術でより体験的にしたようなものと考えてもらいたい。つまり、未来に本当に世界は終末を迎えており、宇宙船「方舟」で脱出する一員である「僕」はその時点からみれば「過去」の架空の設定でプレイしていたわけだ。
解決を翔太郎に委ねてしまった「僕」は失敗であり、GAME OVERなのである。
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