昭和餘年に起きた出來事・2

昭和餘年の出來事(第2話)

幾島溫

小説

1,079文字

軟禁生活時代に毎日書いていたショートショート群です。

(11)
歸つて來ると未だ妖精の死骸はベランダの戶の前に落ちて居た。顏を見ると何處となく小柳ルミ子に似てゐる。これはひよつとしてお金になりやしないだらうか。取り敢へず保管するかな、と思つて居ると猫の瑠璃が入つてきて妖精を咥へて走り去つて行つて仕舞つた。

 


 

(12)
屍體を退けると被害者を回りのゴミがその儘型取つてゐた。「警部、今囘の事件はすぐ片付きさうですね」「ああ、丁度犯人が步いたところが道になつてゐるやうだな」「本當キレイに片付いてゐますよね」「犯人の逃げ道だけはな」~ゴミ屋敷殺人事件~

 


(13)
ペンギンの檻の前に立つと自然と啼き聲が出た。ペンギンたちが一齊にこちらを見る。知つてゐる顏はひとつも無かつた。私が人閒になつて三十年は經つたのに、あの頃の癖はまだ拔けない。最後に一度啼いて、それから私はペンギンの檻の前を後にした。


(14)
私の中に誰かが住んで居る。一體お前は誰なんだ。一ヶ月近く樣子を伺つて居ると、少しづゝ私の腹が出て來た。私が何も言はないのを良い事に、居住スペースを廣げた樣だ。朝イチでトイレに行くと今日はエクレアの袋が出て來た。私の中の暮らしはきつと快適なんだらうな。


(15)
强化ガラスの箱の中に居ます。皆の顏は見えるけど、何を言つてゐるのか解りません。みんなは樂しさうに笑つてゐます。誰とも視線は合ひません。この箱はひょっとすると、マジックミラーなのかしら。


(16)
俺が歸らうとするとサーバーが落ちる。何度調べても、何人で調べても不具合は見附からなかつた。「呪はれてますよ」笑ひながら言つた後輩の聲が忘れられず、俺は翌日近くの神社でお札を買つて貼つてみた。するとサーバーは落ちなくなつた。


(17)
銃口が僕の左胸を狙ふ。南無三、目を閉ぢ僕は覺悟を決めた。時が止まつた樣だ。僕は死なない。目を開けると彈は僕の足元に落ちてゐた。左胸を觸る。すると凍つた赤福が出てきた。さういへば人肌で解凍しようと仕舞つておいたんだつけ。まさか赤福に救はれるとは。


(18)
再放送は過去と今を繋ぐ窻口。再放送中の畫面に入ると、本放送中の時代に行ける。再放送をするのにはさういふ意味が在る。知つてゐる人は使つてゐる。


(19)
彼女はスカートの裾に剃刀の刃をつけてくるくる回る。笑つた顏が此方を見る。だけどこれぢやあ抱き締められ無いし、手も繋げないよ。さうしたら屹度僕がズタズタになる。ごめんね、君には近寄れない。


(20)
夏が終はつて空氣が乾いてきたせゐか、足の裏に舞茸が生えてゐた。すぐに刈り取り洗つてバター醤油で炒めた。秋を感じる。

2024年9月6日公開 (初出 2009年頃 twitter(垢消し済み))

作品集『昭和餘年の出來事』第2話 (全3話)

© 2024 幾島溫

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