煙草の灰

阿蘇武能

小説

407文字

「よいしょっと」

私は腰を下ろした。

「ああ、くたびれた」

ポケットをさぐり、煙草とライターが入っていないかを探してみる。果たしてそれはズボンの後ろポケットに入っていた。

箱はくしゃくしゃになり、煙草が少しくたびれてしまっている。こんなものでも無いよりはましだと、私はそれを口にくわえ、火をつけた。

しばらく、のんびりと煙草を吸う。先端からくる熱と煙が私の顔をあたたかくする。
これからどうしようか、と私は考えるともなく考えた。すでに辞表は提出してしまった。受け取った上司の顔といえば、なおざりのねぎらいを口にするばかりで、ちっとも心はこもっていなかった。近頃はこういう退職が増えているのだそうだ。上司も強いては私を止めようとしなかった。
「これからどうしようか」
私はぼんやりと考えるよりほかはなかった。どうにも今の状況に、現実感を持てないでいる自分がいた。

 

煙草の灰が、自分の重みに耐えきれず、ぽとりと地面に落ちた。

2023年10月12日公開

© 2023 阿蘇武能

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