エスカレータ

猫が眠る

小説

913文字

ウキウキでかきました。

大阪にある八階建てのデパートにボクは居た。

元々、近くの歯科医院に抜歯をしてもらうのに、来た。治療を済まして、最寄りのバス停まで行くと、次のバスは四十分後である。

そんな訳で、ボクは何ともなしに、バス停の眼前に立派にあったデパートに目をつけた訳である。

大阪の中心街にあるデパートと云うだけあって、中にある店の品の値を見ると懐の寂しい思いをするばかりで、慊りない。

しかし、入ってしまったからには、ぽつねんと足もとを見てるばかりでは、誰にという訳でも無いが、きまりが悪いような気がする。

まあ、無精髭を伸ばしっぱなしにするようなだらしなさで、ずるずるとエスカレータに運ばれた。

しかし、そのまま最上階まで行くようでは、如何にボクといえど、恥じらいがある。それに、思う壷になるようで、まこと慊りない。

ボクは五階でエスカレータをおりた体で、九十度ぐるりとエスカレータを右回りした。

エスカレータを側面からまじまじと見る。スーッ、上ってくるの、下りていくの、上っていくの、下りてくるの、四ホンが交差し、やめることなく運動を続けている!

瞬く間に、ボクは或る異世界にトんだ。この交差の永久機関である無機物は、傍目には交じりながら、実際には擦れ違い続けることで代謝する生き物だ、人間が神の掟を破って、生み出した奇形の生物のフリークショー!

じわじわとボクの身体は熱を帯びてきた。それを感覚したときには、彼のタブーに惚れ込んでいたのである。

彼の交じりあっている見せかけの媚態は玄人である。が、それは、凛と一本、白桔梗の虚勢であり、内面のナイーブな恥じらいは隠しきれずに溢れ出てしまっている。

さらに、純朴な青年のこの擦れ違う恥じらいは、トワ(永遠)である。この生き物の交じりけもなく矛盾もない相剋は、エロスとタナトスとして途方もないフェロモンを放っている。

若しそれが、禁忌に触れようとも、罰を受けることになろうとも、ボクにはその魅惑に抗う力はない……。ボクは彼を愛し続ける他ないのである。

痛い。どこだ? あ、歯。医者の奴、適当にやりやがって、態度も横柄な野郎、気に食わなかったんだ。手首の時計、デジタル。へえっ、バス、あと五分。エレベータで行ったら間に合うな。

2023年7月6日公開

© 2023 猫が眠る

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