「おれは山羊になりたかったんだ……」と、斬新な理解者のふりをしている白い山羊だった肉塊たちが、脳の中を演出しながら叫んでいる……。彼は、どろどろに溶けた博識な脳を舐めながらボトルの中に潜んでいる被害者の会を襲っている。生計を立てるための建前であることを知った上で棘を踏み、誕生するはずだった赤子の脳で腹を満たしている。
「おれは糖分で脳を形成しているんだ……」と、消耗品の兵士たちが白黒の中で叫んでいる。西の光が終わるころになって、ようやく山の存続の危機に気づいた男たちがスコッチのタワーで教科書を湿らせているぞ……。曰く、「『めえ』とだけ鳴け……。それ以外は勝手に過ごせ」だ……。
そしておれは山羊に変身する……。襲い掛かってくる毛の群れから山羊の形を探し出し、素手の中で彼らの舌を感じる……。
草原にたたずむ山羊が増えていく……。まばたきの合間に二倍になっていき、体積が幼児と同等になってから舌を伸ばして女の尻を舐めている。山羊はどこにでも入り込み、どこにでも唾液を垂らして鳴いている。「山羊は執刀医よりも人間の臓器に精通している。彼らは舌の上でカルテを描き、患者に適正価格で手術を提供してから人間の血と肉で乾杯をするぞ……」そして手術室に二匹の山羊が入り込んでメスを要求している……。コンビニエンスストアの戦争で松明が弾け飛び、苦いココアにはちみつを挿入して歌っている。
電波の流れの中で山羊が二足歩行を挑戦している。おれたちは観測するために一夜を共に過ごし、山羊の心臓の中で台風を呼び起こし、山羊の混乱を突っ切って電波の根源に到達する。
「おれたちが?」
「ああ……。朝日だ……」と、おれは上司の山羊に唾を出す……。
「ならさっさと冷水を浴びてこい。おれたちの夜は長いぞ」
「はい」
おれは課長室から逃げるように退散し、がちゃりと封を開けられたシャワーヘッドだらけの不気味な室内に自分の唾を垂らす。すると手先の中のシャワーヘッドから冷水が飛び出し、おれの全身を山羊の香りで埋め尽くす。おれは頭を指の腹で掻きむしり、それから架空のシャンプーで丁寧に洗浄していく。
「上がりました! 課長!」
「めえ! めえ! めえ!」
「ああ。すでに駄目らしい……」山羊の大群の中の課長に敬礼をした後に女中が運んでいるココアを一つもらってからクラブの入り口に立つ。
「なんだいオッサン。そんなところに居たって、曲には乗れないぞ?」
「いいんだ。おれたちは動けないから」と山羊らしい顔の彼に舌を出して弁明する。「ところで君は、スコッチ・ウイスキーという酒を知っているか?」
「いいや」
「なら、いい……」そこでおれは一瞬だけ酒飲みの顔色を演出してから引っ込めて風上を頭髪で感じる。「おれは何も探し求めてない……」
「そうなのかい? なら電波を探しな……」と彼は消えるような透明な声で叫ぶ。しかしその昆虫のようなひときわ小さい声の源は、この鉄の出入り口の向こう側に存在しているらしいクラブから流れてくる曲に取りこまれてから消えてしまう。
「いいかいオジサン。髪型に適正年齢なんてないんだよ?」
「わかってるさ」
おれは足の中で街を歩いているふりをする。
それからおれは鉄の扉から二歩離れてその少年の額をはじめて見る低身長の彼は眉間の辺りに小さなコブのようなものが浮いており、色は朱色。そして彼は特別な甘い香りのするおかっぱでクラブの動員を睨んでいた。
突然降り注いだ窓ガラスから、クラブを眺めてみる。数々の山羊たちが首を前後に振り回し、曲の波動と自分たちの電波が溶けて混ざっていくのを楽しんでいる。
「おれは山羊じゃないからいいや」と、おれは受付の少年が急成長する前に言い捨てて、さっさとこの場から出ていこうとする。
「待ってくれ! 五割増しにしておくから!」
「うるさいな。おれは山羊じゃないんだよ」
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