一般山羊。

巣居けけ

小説

2,137文字

どうしようもない無職の、とても汚い山羊たち。

「でも、おれたちが稼いだ化石はどこへ行ったんだ?」
「ああ、あれ? おそらく火星の右隣り」

すると注文したカプセル・バーガーが黄色の皿にのせられてやってくる。テーブルに置かれたそれを、黒山羊は右手で握って一口頬張った。
「それで? 君のほうは?」
「おれのほう?」赤色山羊がコーラを握りしめながら訊ね返す。
「ああ……。おれたちのゴキブリ掃除だろ?」と黒山羊。
「そうか! おれたちのゴキブリは、その後どうなった?」
「南の島でいつでもバカンスさ! おれたちにできることはもうないな! ガハハ」
「どうせ三日後には帰ってきてるよ」

赤山羊はコーラのストローを噛みしめながら、五日間のゴキブリとの生活を思い出していた。それはまさに地獄の日々であり、彼にとっては人生の起点でもあった。山羊という生命体が宇宙の中で光り輝き、全ての生命体に勇気とココアの苦さと、カフェテリアへと向かうための労力を与えていた。
「相談事、だろ?」

黒山羊が次のメニューを眺めながら、他人行儀を演出しながら訊ねる。

すると赤山羊がようやく二口目をバーガーに付ける。「カプセルのぷちぷちで、おれは三日過ごせる……」

カフェインを摂取するだけの山羊たち……。そして音楽を強制的に囁いている拡声器が耳の山羊……。黒山羊はさらなるメニューを指で触れ、再生されていく動画の流れによる毛並み総括に参加する。
「ところで、君に見せたい駅がある」
「なんだい?」

そして黒山羊はポケットから新しい指輪が入ったケースを持ち出し、腐った木材のテーブルに置いた。
「ほう、良い代物じゃないかっ」赤山羊が追加注文のココアを連呼してから指輪を手にし、五本指に順に入れていった。
「新しいシチュエーション、だろ?」新鮮な煙草伯爵が囁いているぞ……。

そして新しい面談の空気感が吹き荒れ、バーガー・ショップの壁紙が白で統一される。二人の山羊が立ち上がり、片方は煙草伯爵を握り、新しく挿入された入試用の資料に目を通す。
「では、この会社に入力していった起動と、それに伴う力士のための推薦状を、教えてください」

すると面談片方役の黒山羊が答える。
「はい。我々は新しい入力機構のための力学に貢献したく、新しい重力軌道を描いている会社に入社したいと考えていました。日々のカルボナーラ咀嚼による炎天下の坂道で求人票を求めていたら、最後の坂の中心点で貴女の会社を見つけました。私は驚愕し、水平感覚を失うと共に万年筆で入力を開始していました。旅立ちのための機構変動はすぐに終わりました。訪れる日の出と共に会社の受付山羊を咀嚼し、新しい看板に自分の名前を書きました。いきさつです」
「あなたの名前は?」
「ドラゴン・ネット・インスタント・クラッシュ……」

荒れている肌のような山羊たちが迫って来る……。終息した面接会場は開催された紙切れと共に吸引され、みすぼらしいバーガー・ショップが再建される。
「マダニ建設会社?」
「ああ! もちろん……」そして西瓜の流れによって新しいバイト・リーダーが前転でバックヤードにしまわれる。

さらに黒山羊はやってきたココアで壁に穴をあける。ぐりぐりとコップの角を壁にぶつけ、崩壊していく壁に長い舌を這わせて味を確かめる。
「ほら! ほら! 壁がココアの香りだよ!」
「そりゃあ! あんたがココアの花瓶で穴をあけているからね! 私の最愛のココア!」と、赤山羊は赤子を盗られた母親のような顔と声で泣き始める……。やがて水分を全て涙として放出した赤山羊は、頭部を中央でぱっかりと割り、中から飛び出してきた小さな赤山羊に次の文書を読ませる……。
「えー、我々山羊委員会は、今作の摩擦委員会の中で、もっとも驚異的且つ、最も白状な人間一人を決め、さらなる発展のために、新しい機構を肉片とともに貼り付け、進化した山羊を見せつけることを約束します。つきましては、金銭の入った便箋に唾液を投下し、山羊の大群の雪崩による発電に気概を感じ、涙を流す暇さえあたえない。我々はより精鋭感のある組織へと変貌を遂げ、狙うは警察組織の解体と挿入。素晴らしい発展を心より願っていることを、この場を借りて申し上げたいと思います」
「質問良いですか?」と黒山羊が記者の真似をしながら素手を上げている。
「どうぞ」
「検索には引っかからないのに、地図には記載されている地名があることを、ご存じですか?」
「いいえ。私たちは轢死のある企業ですから」赤山羊は新鮮なスクワットを繰り返しながら言い切った。
「鉄臭いとでも言いたいのかいよ」

黒山羊は手元のせんべいを投げてから、壁紙が剥がれたカフェテリアの壁に新しいポスターを貼り付ける作業をしている職員にチップを渡した。すると素手と素手とがぶつかり合い、薔薇のような香りと鉄臭さが混ざった。山羊たちが一斉に立ち上がり、カフェテリアの全てのココアが粉へと戻った。
「まあ! おれのココアが!」

壁にめり込んだままのココアの花瓶から、粉末が垂れてる。流れる粉に他の山羊たちが群がり、四つん這いで長い舌を伸ばして舐めている。
「ほら見て! パレードよっ!」

黒山羊がひっきりなしに赤山羊を叩いている。山羊の打撃音が二段階の重なりの中で響き、カフェテリアの壁が崩壊して面接会場が現れた。

そうして上級パレードが始まった……。

2022年12月19日公開

© 2022 巣居けけ

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