電撃よりも素早く収束して縮こまることのあるパイプオルガン。国を観測し続ける赤い風船の大いなる群れ……。鋭い眼光と金属片のような頭髪を持つ外雨家の人間たちは、特性の白いだけのゴムで作られた等身大の人形を大事に家族と想っている……。
「やつは生粋のサディスティックだ! そして黎明を過ぎたころの熱量に、蝋燭を垂らしてさっさと自立」
ひどくガス臭い人口密度の中。公園に設置されたキーボードに吸い込まれていくプロの山羊捌き係。誰かの表明が一度だけ響く。ガスコンロが自動的に足を伸ばす。後の拡声器を使用した轟きは政府の真似をしている有刺鉄線の団体によって速やかに規制されてから投てきをたどる。
「ここからはコンピュータですら立ち入ることはできない」
検査の団体が家宅捜索で主人に質問を繰り返している。
「それで? この粉は何に使うんだい?」
「窓ふきです……」
「窓ふき! 窓ふきだって!」
「いつでも埃を嫌っているんだろ? なあ」
「いいえ……。まさか、そのレベルの潔癖ではありませんよ……」主人は必死に土下座をした後に団体職員の靴の先を順番に舐める……。「ははっ。おれたちはこうして、身体を使って清掃ができるんですよ……」
「気味が悪いな」
職員たちの重い足が主人の後頭部に痕を付けていく……。
そんな無理矢理な家宅捜査が二日続くと、主人はすっかり痩せ細り、くまと頬骨が目立つ容姿に変身していた。それまでは電信柱のように屹立していた体躯も、すっかり猫背が気に入ったようで、三日目の家宅捜査で訪れた職員たちを大笑いの渦に落とした。
「おいおい。あんたはどこかの密林で暮らしているのかい?」
「それとも猫の真似か? ええ?」
「私は、ただの掃除人ですから」
「そうかい。ならさっさとここを空き家にしないとな」
全ての埃を口だけで取り除いた後の綺麗な昼夜逆転を新聞に掲載するための行動と万年筆。「おれ達が新しい記者だ! そして、やつが初めての記事の中心だっ」メモ帳の中心を探し、左右に別れた色紙に尻の輪郭を記入。新たな記者は口から溢れ出る言葉に餡蜜のようなとろりとした語気を乗せて民衆に聞かせる。
「卑怯だって言う方が、卑怯なんだよ!」
「いや、それは違うでしょ」お年寄り専門の美容師教室が開かれる……。「人にダイブの方法を伝授しただけなんだ……。彼の頭髪では、たわしが煽動してる……」
憔悴の中の女……。自分の子宮内部で昆虫が蠢ていると訴える女医が、スクール水着で紫の蠱惑的。「全ては医学の昆虫的野生発展のしわざだ」そして最後の指揮棒を振り続ける山羊学者……。
「先生。今度の作品にはどのような心理を埋め込んだのですか」
三年目の助手が問いを投げた。しかし山羊学者はそれに、暴力で答えた。助手の右頬を勢い良く引っ叩き、彼の脳を振るえさせた。
「私を先生と呼ぶなっ!」
「でもアンタは博士だろう?」
外雨家の人間が壁の黒い時計をじっと目にする。「十一時、か……。ならば、夜ふかしを始める時間だ」静謐さが包む食卓の中心のビスケットに一度きりの敬礼。次の項目では真紅のドレスの猫に驚愕の一報。サンタクロースは通常荷物をグラタン技師に届ける手筈を整え終えた。
「お届け物です。いつでもハンコの用意を忘れないでください」
「あらありがとう。でもここではチーズの香りが全てなのよ」そして片手のハンコで押印する。
「そうですか。ですが、こちらも決まりなのでね」そして水平二連式のショットガンを一度だけドカンとやる……。火薬の炸裂の轟音の後、香ばしい臭いがグラタン作成室に漂ってチーズと成る……。
「おれが新しいグラタン技師だ」
そして彼は優秀な山羊専門学者であり、最高の珈琲淹れ師でもある。「風船はお断りだよ。いつでも酸素で水を泡ただすからね」空に浮かぶ雲の隙間を観察しながら囁く……。
「なら、ココアは?」
「あれは本物の糖分とは言い難い。なぜならあれを飲む人間や山羊は、必ず下痢を経験するからだ」
深夜はいつでも二十二時……。日の出が折り重なった就寝を告げて時計塔を先端から舐める……。画鋲だらけの廊下を上手く避けて走り抜ける囚人の病棟や専用の注射器。個人はいつでも自分専用を所望する……。
「だからこそ大変なんだよ。どうしておれたちが散髪屋で働かなくちゃならない?」外雨家の『ふり男』が、同僚の、黄色い作業服に全身を包んだ性別不詳職員に話しかける。
「なあ、あんたはどう思う?」
「おれたちは列車を動かす棒だ」唇を動かしただけで、本来手足を動かした時に鳴るゴキュゴキュという音が響く。
性別不詳職員がひとしきりのココアが入った薄桃色のカップで扉の金色をカチンとやる……。「お前の存在がバタフライ・エフェクトだよ……。まったく……」
ふり男は開いた扉の先を進み、階段を下った。性別不詳職員の、ありとあらゆる幼少期によくある癇癪のような切り裂きの声にはうんざりだった。ふり男は最下層まで下ると、そこで待ち受けていたココア店舗で新しい粉を購入する。
「これは確かに良く効く粉だが、一つだけ注意がある。これには山羊の唾液も、舌も、耳の裏の毛皮も含まれていないということだ。これを使った女医はたちまち自分が山羊であると思い込み、放牧の秘訣というジャンルの新しくも二枚目な小説を執筆し始めたし、六十代の山羊人間は自分のしっぽがサーカスで活躍する団長だと思い込んで、風船軍団に首を括りそうになったんだ」
「愚かな話だな……。全く、眼鏡が無いよ……」嘲笑。次いで出てくるため息を吸い込んでから、ふり男は新しく包んでもらった粉の紙袋を持ち、店を出た。
店先にて自分を待っていた刑事に声を掛ける。ふり男は、このいつでも国家権力に反発するような見た目の刑事が、自分のために本物の粉薬を提供してくることを透明な神経の繋がりの細胞で知っていた。
「なあ刑事さん。土曜日の中にある豚は何匹だい?」スナック菓子マニアのような調子で訊ねる。
すると刑事は右手の指で『4』を作った。
ふり男は頷くと、彼の背中に自分の背中を合わせた。自分の着ているオーバーホールに刑事の背の脂や汗が染み込んでくるのがわかった。しかしここでは、この縦式の電波塔の内部では、それが他人同士の合図だった。
「今回の粉はいつもよりも濃い。飲むのに苦労するだろうが、しかし飲めば、全てが解決する」
「そうかい。これでようやく、肉感だけの強い悪臭の世界からもおさらばできるし、夜な夜なハサミのお化けに追いかけ回されることもなくなるってことか」
「……お前はエンタメに特化しているようだな」
「おれはホワイトハッカーじゃないぜ?」
それから刑事は、まあいい、と不思議そうにかぶりを振りながらどこか遠い霧の奥底の気化した黒い城へと消えていった。ふり男にはその溶けていく身体の様が蒸気のような不確かで安定感の無い実体に視えていた。
ふり男は受け取った紙袋から煙草を取り出し、刑事の残り香と混ざらないような角度でライターの火炎を灯し、勢い良く吸い始めた。
「人類は皆はげに帰還するんだ……」
すっかり消えた壁に問いかける。市販のものよりも高速で溶けていく煙草の先端を壁に押し付けて殺す。
やがて刑事が首から先だけをふり男に向けて真実のような学説を吐く。
「こっちの都会には、外雨家の人間なんていないよ……」
雨の降らない街の夜空を連想していた……。子守唄のような雨が鼓膜に貼り付いた……。
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