●終章
「アスランの命令なんだ」
「マフィアのボスの?」
「うん……聞いていると思うけど、アスランは偽物の宝石を売りさばいて儲けていた。でも最近は、タンジーの本物に敵わなくなって来ていたんだ。街の連中も目が肥えてきて、偽物を見抜く様になってきたからね……で、アスランはタンジーを憎んでいたんだ。とうとう、奴を消せ、と命令を下したのさ。俺にその役割が回っただけの事さ」
「そうだったの……」
サラはタンジーの遺体を見つめた。私には優しかったタンジー。でも二人の恋の邪魔者……
「でも、これからどうするの? これで貴方は殺人犯よ」
「うん……」
イルカは俯いた。タンジーが居なくなったのは二人にとって好都合だが、このままではイルカは殺人犯として、街の留置書へ勾留され、再びサラと離れ離れになるのだ。
「お二人共、砂漠へお逃げなさい」
カイリが突如口を開いた。
「砂漠へ?」
「はい。私がしばらく分の食料とお金をご用意致します。それで砂漠へ」
「でも、砂漠だなんて……」
「この街から少し行った所にキャラバン隊が旅の途中で補給に立ち寄る井戸がございます。次のキャラバン隊は数日後に到着予定ですから、そのキャラバン隊に頼んで、遠くのオアシスへお逃げなさい」
「オアシスなら、私達が生まれた村があるわ」
「そこではすぐに足が着きます。もっと遠くへ行くのです」
「……分かったわ」
カイリの用意してくれた食料と金の入った背嚢を背負って、二人は屋敷を後にした。街を出てえんえん歩く。夜の砂ばかりの砂漠を月明かりを頼りに進んでいくと言われた通り、大きな井戸があった。井戸の脇には砂が固まって出来た砂漠の薔薇がキラキラ光っていた。休憩用の小さな小屋が隣に立っている。既に東の空が白んでいた。二人は井戸の前で並んで座り、朝焼けを眺めた。
「とうとう一緒になれたわね」
「うん……。でも、サラはこれで本当に良かったのか? 俺と一緒じゃ、もうあんな贅沢な暮らしは出来ないぜ」
「良いのよ……私は好きな人と居るのが一番なの」
「……俺もさ……オアシスで、羊の放牧でもするかな」
「そうね」
二人は固く抱き合った。抱き合った二人を朝日が照らす。砂の上に長い影が出来た。朝日は二人の新たな門出を祝福するかの様に、砂漠に白い光を放っていき、砂漠の薔薇は沈黙したまま、二人を見つめていた……
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