「亜男くん、たしかその日」と田古田さんが言ったんだ。「基地反対派の又吉イエスを偲んだあと基地賛成派の我那覇真子にぐうぜん街で会ってサインもらったんだよね」
僕は田古田さんに向かって頷いた。そして僕はふとチャッキーに目をやった。見るとチャッキーはとりつかれたようにスケボーに乗って店内を走り回っていた。したがって僕はそんなチャッキーにとりつかれてしまったスケボーの冥福を祈った。
それから僕は利亜夢に目をやった。彼は椅子の上に立って「コギトエルゴスム」というまったくもって理解不能な呪文か何かをくりかえし唱えながら手にしたチュッパチャプスのスティックに結んだ凧糸で氷を釣っていた。利亜夢は昔なつかしい遊戯「氷釣り」をしていたのさ。そうそう、その氷がいっぷう変わっててね。$100札の束を模した氷だったよ。おそらく雑貨屋に売ってるようなユニークなアイストレーでつくった氷さ。
利亜夢はその氷にかるく塩をふり、そして凧糸をベンジャミン・フランクリンの口もとにたらしていた。で、その幼いフィッシャーマンはベンジャミン・フランクリンを釣り上げると、マラソンの給水係さながら彼は店内を周回中のチャッキーにそれを与えていた。バカ犬の牙で粉々になるかあるいはほどなくして溶けてなくなるか、いずれにせよ嫌だなと僕はそんなことを思いながらチャッキーに噛み砕かれるベンジャミン・フランクリンを眺めていた。利亜夢がこう言って釣り竿にしたチュッパチャプスのスティックを投げ捨てるまでね。
「このお金かんたんに釣れるからつまんない」
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