ジュンは九歳の頃に処女喪失体験をした。
相手は肉屋の店主だった。ジュンから誘い、行為終了後に三十円を受け取った。
ジュンはその二十分後に店主を殺害した。
店の中には合計で二千と五十八円が管理されていた。ジュンはそれを持って村を脱し、交通費を節約しながら都会に向かった。
都会到着までの間、ジュンの基本的な収入源は身体によって発生した。
あらゆる種類の男に抱かれた。大抵の男はジュンを物理的ではなく精神的に苦しめることに悦びを得ていた。つまりジュンは膣や子宮ではなく尊厳をいつでも汚された。出したばかりの糞を食らうと男は嗤った。豚の糞を食らうとさらに嗤った。自分で出した糞を自分で自分の身体に塗りたくることを強要された。首にも脇にもへその中にも股間や尻穴にも糞を塗った。男どもが出した糞をシャンプーに混ぜて使用することを強要された。一度拒否をすると牛の糞も追加で混ぜられた。次に拒否すると馬の糞も混ぜると忠告された。シャンプーの臭いなんてしない風呂場でジュンはこくりと頷き、糞シャンプーを自分で頭に乗せてかき分けるように頭皮を洗った。
カネを受け取った後、すぐに知らない酔った老人を指差し「あいつのゲロを飲め」と命じられた時、ジュンは自分がなんのために身体を売っているのかわからなくなった。
それからジュンは誰にも股を開かなくなった。
だがジュンはまるで誰にでも股を開くという態度だった。そうして男を誰も居ない場所へ誘い込み、うなじをナイフで貫くことが次のジュンの仕事だった。
効率はよく、収入は糞を食べていた時の倍になった。だがこれは別にラクな仕事ではなかった。男を殺害する瞬間を他にみつかってはいけない。性行為は他のどんな人間に視られたところで不利益に働くことはなかった。むしろ自分を売り込む手法だった。故に少し工夫を凝らす必要がある。とはいえジュンはそれを楽しんだ。自分の『作戦』の通りに男を殺害できると喜悦を得た。故にこの方法を辞めることをジュンは意識しなかった。
ある日の夜、ジュンはいつものように男を引っ掛けて森に誘った。恥ずかしいの、という文言を上手く吹けば男は簡単に緩んだ顔でついてくる。ジュンは素手を握るというサービスをつけながら男を小屋の中に誘った。
待って。男は出入り口扉の前で止まった。ジュンも停止し振り返った。男のすぐ後ろにぞろぞろと別の男が現れる。それは一人ではなかった。
皆で楽しもう。数十に至る男の軍団は全員が同じような顔だった。ジュンは硬直する身体を叩いて逃げ出した。だがすぐに男に捕まれる。ジュンは濁流に流されるように小屋の中に入った。
ジュンは久しぶりに男の糞を食らった。尿を飲み、げっぷを嗅いでげっぷを嗅がせた。とある男はにやけながら射精した。だが別の男はクセェと怒鳴り尻穴を舐めることを要求した。ジュンは知らない男の小さな尻穴を舌のみで広げ、唇で固定し、奥から糞カスを啜った。
皮膚と精液の境界線がわからない。このぬるつきが誰のものなのかわからない。ジュンは窓を眺めていた。男の熱いものを受け入れる度、ジュンはなぜ自分がこの世界に生まれてきたのかわからなくなった。自分はこの熱気を飲み下すために生まれてきたのだろうか。きっと違う。ならば自分はなんのために生まれてきたのだろう。きっとこの世に意味を持ちながら生まれた人間など居ない。生まれた意味とは自分で発掘し自分で装備し自分で示すしかない。そして私の身体は掘れば掘るほど他人の糞が垂れ出てくる。窓の硝子はすでに割れており、周囲に破片が落ちている。ジュンは夜風に撫でられながら膣の中の男の肉棒をまた意識する。月をみつめながら尻穴の中の肉棒をまた意識する。素手が勝手に伸びてゆく。男が動かしている。肉棒を握らされる。ジュンはそれを握り潰した。
遠くの位置で男が悲鳴を上げている。ジュンは素手の中の肉棒を別の男に投げつけた。何か湿った音がする。膣の中から肉棒の熱が消える。ジュンは足を動かした。雑に自由に力の限り慌てさせた。いくつかの動きは攻撃となり男の顔面を蹴った。だが尻穴から肉棒が消えることはなかった。男の怒鳴り声が聴こえる。ジュンはようやく視界を意識した。複数人の全裸の男の足が一斉に迫ってくる。
だがジュンの顔面が潰れることはなかった。
ジュンはぬくもりを浴びていた。それは精液の熱ではなかった。肉棒の熱ではなかった。男のぬるついた無駄に毛深い分厚い熱ではなかった。その熱はジュンの中にただ存在しているだけだった。ジュンを塗り替える赤色の熱は四方から飛び散り、止んだ。
ジュンは自分から身体を起こした。尻穴にまだ肉棒が刺さっている。ジュンは身体を引きずるように後退させた。ヌポリという音と共に熱が抜ける。だが皮膚にぶちまけられた精液と、それから鮮血の熱は消えなかった。
ジュンは小屋の出入り口扉を視た。扉は開け放たれており、そこに細身の誰かが立っている。女性だとひと目で理解した。私を救った王子様だとすぐに理解した。
大変だったろう、と囁くリリカは影から月明かりの中に出現する。ジュンはこれほど軽い労いの言葉を聞いたことがなかった。リリカを覆う別の影が飛んでくる。ジュンはありえない速度で動き出した。窓硝子の破片を取り、まるでリリカにそうするように奇襲を仕掛けた男の腹を突き刺した。ジュンの瞬発力はそこで終わった。刺された男は適当に床に倒れた。だがジュンは、倒れる先でリリカの腕の中に沈んだ。
「いい腕だ。騎士になれるね」
ジュンは二十歳の頃に人権獲得体験をした。
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