ぼくは君のことだけは応援しておきたかったんだ本当なんだ脳みそが砕けるほど恋焦がれていたんだ嘘じゃないんだ事実なのだ……。
階段のようなその音階の中から光景を見出すことにどれだけ愉悦を得たのか知らないし、けれどけれどですけれど明日の朝日のようなまだまだ未確定な事象のようなその声色に少し怖いなって思ったのも事実です。
そのように一人だけの徒党がまるで病的なサインを得たかのように起伏してゆくのです……。果てのない極地に至るあなた様だけが事実なのです……。これが世界だと私はまだいいたくないのです……。それにしてはだってあなたはまだまだ成長できるでしょうし、それに加えて私はそれをいうに値する人間ではありませんからね……。
西から東に捻じ曲げることさえできてしまいそうなその色どりが最適解だと知ってしまったのです……。飴男劣情淫驚愕(あめおとこれつじょうみだらきょうがく)は新作の楽曲を握り締めて呟いていた。それはまさしく自らの愉悦が最大限にまで高ぶり、それでもなお十分な快感を得ている照明だった。飴男劣情淫驚愕(あめおとこれつじょうみだらきょうがく)は新作楽曲を聴きながら学校に向かった。校庭で靴を脱ぎ、辞書の中から宿題を探した。図画工作の時間を利用して昼食を済ませると職員室で独りだけの帰りの会を発動した……。
「それで、今日の成果は?」
「これであります」飴男劣情淫驚愕(あめおとこれつじょうみだらきょうがく)は呟きながら新作楽曲を端的に記した同人誌を渡した。教師がそれを受け取る。飴男劣情淫驚愕(あめおとこれつじょうみだらきょうがく)はにこやかな顔だった。その顔を教育手帳取得条件を満たした連中がぶっ叩いた。
「どうして!」
「こんなもの聴いているのならな、聴いているのね、聴いているってんならさ、あんた! 聴いて聴いて聴いてってしまっているのならさ! もう僕は君を殴られておけよ!」
教育論者たちはわなわなと震えながら飴男劣情淫驚愕(あめおとこれつじょうみだらきょうがく)を撲殺した。僕はまだあなた様の信徒になっていないのだと知りながら空の裏側に向かっていった……。
音楽的な会場の中でヘビィ・メタルが鳴り響いている……。しかし僕は気付いている。そんなものより、そんな幾何学的なものより意識すべきものがある。確かにドラムスの音程は素晴らしかった。プロフェッショナルとして遺憾のない仕事をしていると僕でもわかった。だがそれより本棚だった。その連なる古い、しかしまだいきいきと活動する喉のような精緻な息遣いこそが好ましいものだった。あれは花だろうか。いいや虹なのか。僕にはわからなかった。わからなくてもいいような気がした。ただ僕はまるであの空の中の雲に両肩を預けているかのような浮遊と快感が同時に迫る、けれど波のような圧迫感もない呑まれてゆくこの音楽体験に身を任せていたい……。
それから終焉の門が開いてゆく……。僕は僕たちも僕たち以外の人々も一律に白色になってゆく……。雲と虹が一体化し、空が反転して世界そのものになる……。僕はこの現象こそが世界なのだとよく知った……。しかし僕は気を配った。知ったつもりになることこそが熟知から最も遠い……。そんなふうに鳥のような君はよく歌っているように思えた……。
叙述的な歌声が鳴り響いている……。それだって美しい……。しかし香しい……。けれど僕は空を視ていたい。そうして君と目が合いたい……。不可能を歌う君のことを聴いていると可能性に満ちているような気がしてくる……。僕の足元にも花が咲いているような気がしてくる……。僕は脂のようなにおいのする空の中に居るというのに……。君は注射器なんて持っていない……。けれど僕は橋のはじまりとおわりの部分みたいに常に一定の広さを保ちながらけれどどこかで繋がっている……。
「どうして?」
「だって作家だから……」
僕はどこかで賞を取ったことなんてない……。けれどマウスピースで輝いているようなふりをよくやっている……。冷静な歌声が響いている……。金庫を開く際に使用する針金のような冷たさを持つ針に似た歌声……。ああそれだって美しい……。けれど僕にはこれがいい……。僕はできたばかりの雲を咀嚼するようにいつでも聴覚で愛撫している……。君は声で人を射殺せるから……。
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