二〇二五年七月五日
この日、キリスト教・黒安息日派大司教ジョン・マイケル・オズボーン卿が派の発祥の地であるバーミンガムにて数年ぶりとなる大規模ミサを開いた。ミサは十時間におよぶものであり、世界中から集った黒安息日派の司教たちによる説教が続き、午後八時よりオズボーン卿のミサが始まる。
バーミンガムの野外カテドラルに集まった信徒は約五万人。ストリーミングで視聴した信徒は約六〇〇万人となった。
合唱と管弦楽からなるキリエを合図に、黒い玉座に座ったオズボーン卿が登場した。
〝ビューティフル! アイ・ラブ・ユー・ソー・マッチ〟
信徒たちは「Oi Oi Oi Oi!(オイ・オイ・オイ・オイ)」と叫ぶ。
(Oi とはグロリアの意味でつかわれる)
〝カモーン.レッツ・ゴー・ファッキン・ガイズ!〟
(ファッキンとはここでは迷える子羊という意味でつかわれる)
〝ビューティフル……ソー・マッチ〟
オズボーン卿はカテドラルに集まる信徒を病によって足を震えさせながら心からつぶやいた。
〝世界の終局が近いかとイスラエル人は神の子に尋ねた。いつハルマゲドンが来るのか、いつキリストが来るのかと聞いた。イスラエル人の将来はどうなるのかと聞いた。ああ、愚かなるイスラエル人よ。そこにいるのはキリストであり、神の子であるのに。だが、神の子はイスラエル人にこう答えた「聞くな。知らん。ファッキン・ガイズ!」〟
私はパンティーを脱ぎ、縮こまったおちんちんを見た。恥ずかしがって皮に包まれたおちんちんはバーミンガムに集まった信徒のようにいきり勃っていない。なぜなら、そのところどころ赤く爛れていたからだ。
私は最悪の状況を考えていた。スマートフォンで〈梅毒 亀頭〉と入力し、写真を見てみた。小さな画面に煌々と映し出された症状はグロテスクであり、それと私のおちんちんの爛れは若干違って見えたが、そうかもしれない。
オズボーン卿は放蕩息子の説教を話す。ただし『ルカ書』からではなく、いわゆる『Q資料』からの引用であった。
〝あなたは息子を家に入れたり、追い出したり、トーラを唱えたりと。迷える息子は振り返りつつも母の目の炎に焼かれるきもちで彷徨う。彼に日の当たる場所はなかったが、いつも母を思っていた。Mama I’m coming Home〟
ああ、母よ。私は、性病になってしまった! 私はもう何十年もお母さんにおちんちんを見せてはいないけれど、おちんちんは毒に侵され、爛れ、血が滲んでいる。でも病院に行くのが怖いんだ。前にもあっただろう。尿道炎に侵されたことが。あの時は素直に医者に行ったよ。老齢の医者にゴム手袋をはめた手のひらで玉袋ごと下からからポンポンされながらこう言われたんだ。「風俗好きがよくなるヤツだね。抗生物質でじきに治るよ」と。確かに数日で炎症が消えて痛みもなくなったさ。でもね。母さん。私は、僕はね。風俗なんていっていなかった。まだ風俗童貞だったんだよ!
〝ゴー・ファッキン・クレイジー!〟
(クレイジーはアレルヤに相当する語である)
オズボーン卿はこのように叫ぶ。相変わらず足の震えが止まらず、のどを潤すためにしょっちゅう《のどぬーるスプレー》を使用している。
〝あなたの傷はまだ癒えておらず、心身ともに弱っていく。クレイジー。クレイジー。不公平な荷車から降りてキリストの世界を目指さないといけない。カモン・レッツ・ファッキン!〟
PCのディスプレイ越しに見えていたオズボーン卿の黒の玉座はオズボーン卿を乗せたまま消え休憩となった。
オッフェルトリウムが始まるまで私はあることを試そうと思った。この傷だらけのおちんちんが自慰行為に耐えられるかということである。新しくタブにブックマークバーのFANZA-TVをクリックした。おちんちんを勃起させるためにお気に入りにある『元モデル美人人妻AV男優と二人きりで温泉旅行』を開いた。私はドラマもの、NTRもの、若い女優、スカトロものを好まない。好むのは人妻もの、熟女もの、ドキュメンタリー的なのを好む。本当は腋毛ものが一番好きなのだが、低額のサブスクでは見られないのが悔しいところである。アマプラやネフリと契約しており、これ以上サブスクに課金できないのが現状である。
男優が女優を脱がせようとしているところまで飛ばした。縮こまっていたおちんちんがムクムクと大きくなりはじめ、工事現場の大型クレーンのように角度が上がってきた。亀頭と陰茎から余る包皮の付け根が腫れているので陰茎部分を手に握り、一枚いちまい脱がされていく女優を凝視しながらシコシコ運動をしてみる。包皮をシコシコする度に少々のヒリヒリ痛が来る。痛みを通り越して快楽がだんだんと高まって来たので、期待を込めておちんちんを見たら、包皮との付け根から血が滲んでいるのを確認して手を止めた。相当まずいかもしれない。泌尿器科を通り越して性病科にいった方がよいのだろうか……
ヘッドフォンから厳かな鐘の音が聞こえてきた。ミサの後半が始まるのだろう。私はFANZA-TVからタブを変えた。
〝ユー・アー・ナンバー・ワン〟
オズボーン卿は参列者にそう声を掛け、『サキエル書』から戦の豚の項を説教した。
〝闇が世界を覆い、戦争を賛美する豚どもはひざまずき、這いつくばる。そして自ら犯した罪の赦しを乞うのだ。Oi Oi Oi Oi!〟
「「「Oi Oi Oi Oi!」」」
ドナ・ノビス・ペチェム(私たちに平和をお与えください)の後にパラノイドでミサを終わらせるのが黒安息日派の特徴だが、パラノイドに移行する時、オズボーン卿ははっきり目から涙を流し、声が震えていた。このミサがオズボーン卿最後のミサになることが自身でもわかっているのだ。
〝Can you help me. 神の子よ、彷徨える子羊を助けてください。サタンにつけいれられない信仰の力を我々にお与えください〟
オズボーン卿は最後の力を振り絞りながら説教を下さる。私も目から涙をながし、パンツを履いていなく、萎えたおちんちんからカウパー氏線液も椅子の座面に糸を引くように垂れていた。画面を見ながら涙とカウパーをティッシュペーパーで拭いて、それを見たら、なんとドス黒い血が付いていた。
「神よ! いや、誰でもいいから助けてください!」
〝神の子が我々に与えるのは、栄光の国へと導く光である。ゴッド・ブレス・ユー〟
ミサは終わり、参列者五万人の参加費と六〇〇万人が払った配信料の合計二八〇億円は、オズボーン卿が御自ら患っていたパーキンソン病の先端医療センターと二つの幼児医療施設に寄付された。そしてオズボーン卿は七月二十二日、つまり、最後となったミサから十七日後に薨御された。
そして、おちんちんのことだが、最後に性交(むろんデリヘルだ)してから半年が経っていたため、性病ではないのではと勝手に思い込み、自然治癒を目指した。しかし、亀頭から薄皮が何度も捲れ、夏休み後の始業式で海水浴やプールで下手に焼いた小学生の腕や肩のようになってしまった。それがボロボロと落ちていく。またもや性病ではないかと疑わざるを得なかった。薄皮が済んだ後だが、まだ亀頭が赤く、オズボーン卿の最後のミサの日に血が出た部分がきれいに線上に黒く色が付いている。
ある日、上司と飲みに行ったときに、「いやー、こんなことになってまして……」と打ち明けた。
「ちょっと見せてみ」と言われたので、「ここでですか?」と驚くと、上司は「ちょっと一緒にトイレ行こうか。俺も性病は何回も克服したから詳しいんだ」
ということで連れションしに行き、恥ずかしながらこれまでもかというくらい縮こまったおちんちんを出して、皮を剥いた。
「お前、ちっこいなぁ……ありゃー、こりゃまずいんじゃない。明日半休していいから病院行って来いよ」と言われてしまった始末。
「十二番の方。第一診察室へお入りください」
ドアを開けると中年の男性医が私を丸椅子へいざなった。
「どんな症状ですか?」
受付で書かされた問診票を見ながら聞いてきた。これこれしかじかと話すと、「じゃあ、この上にあおむけになって下に履いているものを脱いで」
私は黙ってパンツと下着を下に降ろした。医者はゴム手袋をつけ、私のおちんちん(これまた限りなく縮こまっている)の包皮を剥いて観察している。
「なにか薬とか塗った?」
かれこれ五年ほど前、ワンナイトラブした結果チンカスが出るようになり、こことは違う泌尿器科に行った。尿道炎の後である。貰った軟膏を塗ったらものの一週間ほどで治ったのだ。それ以来、月に一度くらい定期的に塗っていた。塗ると、なんとなくおちんちんが清潔になる気がしたのだ。その薬が尽きたため、新しく同じ軟膏を買って塗ったのだ。
「その新しく買った薬ってどうやって手に入れた?」と医者に聞かれたので、ネット薬局で買いました。と伝えると、「ネットねぇ~」とつぶやき、「その薬、ステロイドが入っているから粘膜を溶かしちゃったんだね。治りかけているからこのままで大丈夫です。恥垢もないから安心していいよ」
私は恥ずかし気に「この亀頭の下の黒い線はどうなんですか?」と聞いた。
「ああ、これはね、色素が沈着したの。そのうち薄れるから心配しなくていいよ」
「そうですか。わかりました。ご迷惑かけてすみません」
「薬は自分で勝手に買っちゃだめだよ。あなたが使ったの処方薬だから」
私は診察室から出て、受付前のソファに腰かけた。ほどなくして番号を呼ばれたので行ってみると受付のおばさんから「三九〇円です」と言われ、思ったよりも安かったので「薬は出てないのですか?」と聞いたら、「ないです」と言われた。
速攻で治してデリヘル呼びたいの! 今のままでは「お客さん、ちょっとこれムリ」って言われちゃうよ!
R.I.P. Ozzy
眞山大知 投稿者 | 2025-09-19 12:25
オズボーンのことはあまり知らなかったので(最近亡くなられたのすら知らなかった)、勉強になりました。性病怖い……😭
浅野文月 投稿者 | 2025-09-22 22:19
お読みいただきありがとうございました。
この夏の出来事でショックだった二つのことをドッキングしました(笑)
佐藤 相平 投稿者 | 2025-09-21 12:45
実体験に基づく?性病の描写がとても良かったです。「包皮との付け根から血が滲んでいる」は読んでいて心がキュッとしてしまいました。性病って怖いなと思いました。おちんちんの相談に乗ってくれるなんてすばらしい上司ですね。オズボーン卿への愛も伝わってきて、きっとオズボーン卿もよろこんでくれる作品だと思います。このコメントもParanoidを聞きながら書きました。
浅野文月 投稿者 | 2025-09-22 22:23
お読みいただきありがとうございました。
お題の「誰か助けてください」からブラック・サバスのパラノイドを使おう!とすぐに思いつきましたが、そこからが難題でして…
下のほうにいってしまいました(笑)
河野沢雉 投稿者 | 2025-09-22 06:25
改めてオズボーンのことをWikipediaで調べてみましたが破滅型ミュージシャンを地で行ってますね……それで世界的ロックスターになったのはよほどの才能に恵まれたからでしょうね。
性病こわい(ガクブル)。描写がいちいち生々しくて、読んでいておちんちんが痒くなってしまいました。
浅野文月 投稿者 | 2025-09-22 22:38
お読みいただきありがとうございました。
オジーは高校生の時に同じ軽音部の友人がギターで弾くのが得意で、自分はたまに練習台としてドラムをやったくらい…オズボーンズはたまに見ていました。
CDは2枚くらいしか持っていなかったのですが、ラストライブが凄かったというのでストリーミングのアーカイブを買ってみたら感動しちゃいまして。葬列も生放送で見ながら泣いちゃいました( ノД`)シクシク…
性病のほうは、性病というかステロイド軟こうを塗って、皮膚が溶けちゃった感じです…お恥ずかしい。
大猫 投稿者 | 2025-09-23 14:19
なんじゃこれは、と思いつつ、読み進めずにはいられなかった。
一瞬、本当にオズボーン卿という司教がおられたのかと検索しそうになりました。
オジー・オズボーンは宗教的カリスマが似合いますね。黒ミサ的なものに仕立て上げれても全く違和感がありません。
「ああ、母よ、私は性病になってしまった!」
のくだり、噴きそうになりました。
天国(ひょっとして地獄)のオズボーンも絶対笑ってくれると思います。
宗教的法悦の中、「パンティ」を脱いで自慰を試みるって、しかも性病の疑惑の中で。先に医者に行けよって思うけど、確かめずにはいられない宿痾で、やっぱりおちんちんは男のお友達なんだなと妙に納得させられてしまった。
いや、でもステロイドをちんちんに塗るのはヤバいでしょ。治ってよかったね。
浅野文月 投稿者 | 2025-09-25 20:31
お読みいただきありがとうございました。
治ってよかったです!
オジーは最後のロックフェスで今までにない規模の募金を集めたので、麻薬をやったことやハトを喰いちぎったことなどの罪は赦されて天国に行っていると思います(笑)
こい瀬 伊音 投稿者 | 2025-09-24 17:51
実話。うーん?うーん。
確かめずにいられないし、書かずにいられないし、描写しないといられないところには共感できました。
そして超有名人であるところのオズボーン氏の名前すらおズボン👖に見えました。
途中から、感想の所に「とにかく病院へ」と書こうと心に決めていたけど、ちゃんと受診していてよかったです。
浅野文月 投稿者 | 2025-09-25 20:34
お読みいただきありがとうございました。
ド田舎に住んでいるので泌尿器科が一件しかなく、しかもその泌尿器科の先生とは以前喧嘩をしているので…
ということで東京出張の時に行きました。
アホな文章でスミマセン…