皮膚科にて

pera_pera

小説

822文字

数年ぶりに皮膚科に行ってみた、少年のような心を持つ彼の話。

 脚に大きな腫れ物ができたので、病院に行きましたところ、平日だからか患者がほとんどおりませんでした。看護師さんたちは奥で談笑していて、入ってきた僕に気づかない様子でした。僕は保険証を握りしめて、受付の前でしばらく躊躇っていましたが、やがて「あの」と声を出しました。すると看護師の1人がこちらをちらっとみて、「どうされましたか」とぞんざいに言いました。髪をきつく束ねて眉の吊り上がった、初老の女性でした。僕は耳が真っ赤になるのを感じながら保険証を差し出して、小さな声で「診察券を忘れました」と言いました。すると看護師はため息をついて、受付の横の張り紙を指しました。「受付は2時半からです」今はまだ2時になったばかりでした。流れているピアノの音楽がやけに大きく耳に響きました。

 

 時間まで待合室で座っていて良いと言われたので、受付から1番離れた窓際の席に、僕は小さくなって座りました。先程患者だと思った若い男は、薬の配達に来ただけだったようで、横をするりと通り過ぎて出て行きました。僕の方を見て薄ら笑いを浮かべているように見えました。あるいは、もともとそんな顔だったのかもしれません。頬には大きなニキビがありました。

 時間になって名前を呼ばれたので診察室に行くと、座っていたのは顔馴染みのおじいちゃん先生でした。僕はここでようやく少し安心しました。先生は僕の脚をみて、ゆっくりと「おできだね」とおっしゃいました。この声が優しくて好きなのです。先生はおできをちょっと触って、青い液体の塗り薬と赤いチューブの軟膏をくださいました。それから先ほどとは別の看護師さんが僕を隣の部屋へ連れて行き、台の上に脚を乗せて赤い光を当てました。それが終わると先生はおできに絆創膏を貼ってくださいました。

 

 病院から出ると、冷たい風が吹いていました。枯れ葉が道路の上をくるくると回っていました。脚に貼ってもらった絆創膏から、微かに病院のにおいがしていました。

2022年10月31日公開

© 2022 pera_pera

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