14歳の少女は、屋上で親友に秘密を明かした。
闇夜に紛れて人間を食らう怪物、自分の超能力、人類のために戦う使命。それらを2人だけの秘密とした。
翌朝の教室の黒板で、全ての秘密は暴かれた。
親友は重たく項垂れている。
笑い声に囲まれて、少女は決めた。
私の使命は変わらない。でももしここに怪物が来ても、こいつらだけは助けてやらない。
目には涙、唇には怒りが滲んでいた。
闇がその秘密を再び隠した夜、少女は街の片隅で怪物を蹴散らした。傍らには制服姿の少年が尻もちをついている。その無事を確認したら、少女はばつが悪そうに飛び去った。
屋根から屋根へ飛び移り、高い暗がりから街を覗いた。人を食う怪物の存在と自分の力に使命感を見出した少女は、いつも寝不足だった。
机に突っ伏す少女の背中に不意に声がかけられた。珍しい出来事に少女は思わず振り向いた。昨夜の少年がそこにいた。薄々感じていたがクラスメイトだった様だ。青い顔した少年が、昨夜の礼のために我が家に来て欲しいなどと言ってきた。気持ちの悪さに少女は無視をした。
生来のものか戦いで身についたものか少女は周囲の気配に敏感だった。授業中もあの少年の視線を感じていた。自分達を俯瞰して見る目もまた同様に。それが何より嫌だった。
体育の授業中、男女の境も気にせず少年が近付いてくる。秘密が本当だった事、その使命の素晴らしさを分かち合いたいなどと、歯の浮く台詞が乾いた舌から溢れ出ていた。
あまりに鬱陶しくて右手を横に振って追い払った。少年は大きく仰け反ってそれきり近付いてこなかった。その背中を少女は睨み付けた。
茜色に染まる街に少年少女が散っていく。意味もなく徘徊し、商業施設に居座って、何も残さないその生態を、見下ろす双眸があった。
街に茜を残さず黒が染め直した。あの少年が家路についている。祖父が建て、父の代でリフォームされた、住み慣れた我が家。その玄関を少年が開けると、怪物達が出迎えた。
空から足音が聞こえた。パーカーの裾とスカートを翻して少女が降り立った。振り返った少年の顔が人間ではないものに変貌を遂げる。それを見届けた少女は、右手に破魔の光を携えて、怪物の巣窟に飛び込んだ。
液晶テレビ、ローテーブル、三人掛けのソファ、色を合わせたカーペット、写真立て、全てを鮮血に染めた少女が立ち尽くしていた。手に怪物の肉片を持って、虚空を見つめていた。
怪物が人間に擬態する事を、少女は知らなかった。だが少年の強引でしつこい誘い、自分の右手への過度な反応、そういった違和感を見過ごさない様にしていた。少年は家族ごと食われて乗っ取られたのだ。いつからああだったのか。他にも怪物は紛れているのか。油断は出来ない。少女は認識を新たにして通学路を歩いた。
教室の黒板には少年と少女の名前の相合い傘が描いてあった。歪なハートマーク、カラフルな侮辱が並べられていた。
人間じみた笑い声に囲まれて、少女は決めた。
私の使命は変わらない。でももしここに怪物がいても、こいつらだけは助けてやらない。
目に涙、唇に悔しみが滲んだ。
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