砲弾の破片を拔いた積もりで居ても、欠片は未だ拔けて居ない。何時も拔けた樣な氣がするだけで、未だにそれは刺さった儘で在る。
無理な動きをしなければ痛みは無いけれど、何かの拍子に破片は暴れ回って、周りの肉や內臟を傷つけて仕舞ふ。
此の破片が在る以上、僕はもう心の底から笑ふ事が出來無いのかも知れない。
【戰爭はもう終はりました。君は駒では無く大切な一人の人間だよ。格好良くて賢くて面白くて優しくて素晴らしい人間ぢゃないか】
そんな通知が役場から届き、街には朗らかな歌が響き、誰も彼も僕にそう告げるのに、嬉しくなるのはその時だけで、一人になると僕はその喜びをすぐに忘れて仕舞ふ。
否、忘れて居る譯では無い。
一人になるとそれ以上の恐怖が喜びを覆つて仕舞ふのだ。また砲彈が飛んで來たら如何しよう。また戰場に身を置く事を餘儀なくされたら。もしかしたら明日此處が戰場になるかもしれない。僕が派遣された戰場は普通の町だつた。あの町と此の場所に何樣な差があると云ふのだらう。見れば見るほど僕は理解らない。
違ふのはあれが三年前だと云ふ事と今は戰爭が終はつた後といふ事だけなのだ。
僕は蒲團の上で身を捩る。砲彈の破片が胸の內側を刺す。何度診察をしても何も見詰からない。治療は終はつた。戰爭は終はつた。けれど僕の身體も心もそのことを全く理解つて居ない。泣いて居る。僕は泣いて善いと思ふ。
「今はもう平和です。幸せは永遠に續きます。僕はずつとこの町で安穩と眠る事が出來ます」
僕はさう聲に出す。
それでも僕は泣いて居る。
了
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