★8
翌日午前八時。僕もあさひも宣言どおりナカノ驛前にやってきた。休日の早朝は空氣が澄んでいてとても氣持ちがいい。誰もいない事が僕にこの朝を獨り占めしているんだという錯覺を抱かせる。
「さむいよぉー。ねむいよぉー」
僕は上着の襟を立てて風を凌ぐ。
「ハイハイ。男の子なんだから弱音吐かないのっ」
「だってさー、寒いんだよ。それに眠いし。凍死しちゃうよおー」
「あさひさーん、ルリヲさーんっ」
僕の前方アチラの方から聲がした。視るとミニスカガールが手を振っている。
「ゆうかちゃん!」
「えへへ、お待たせしました」
彼女は冬先取りの黑いコーデュロイのスカートから決して細すぎない健全な脚をすらっと伸ばして僕の目の前に現れた。眩暈がする。僕は己の衝動を抑えるのに精一杯だった。脚、太股、ふくらはぎ。うひゃー!近い、近い。僕という輪廓の肉體に彼女のそれがニアー・ヒアー。
「ルリヲ、ゆうかちゃんの脚見すぎっ!」
「うっ、なんでわかるんだよ」
「ゴメンね、ゆうかちゃん。ルリヲばかだからさ、許してあげてね」
「ふふっ。お二人は仲が良いんですね。何だか私羨ましくなっちゃうな」
「仲いいって言うか、ねぇ」
「そうそう。腐れ緣の幼馴染みだからさっ。だからゆうかちゃんは何も氣にしなくていいんだよ」
僕はトビキリの作り笑顏でこう答えた。これで早くもサワヤカ・オブ・ジ・イヤーは決まったんじゃないかと思う。
「でさー、ゆうかちゃんこんな朝早くから何するの?」
あさひが話題を換えた。さわやか大賞受賞の餘韻に浸っていた僕は卽座に笑顏を膨れ面に變える。
「それはですね……ちょっと待って下さい」
ゆうかは持ってきたボストンバックの中に手を入れた。そして暫くして出てきたのは、ハンチングと蟲眼鏡だった。
「あさひさん、これどうぞっ」
そしてそれらをあさひに手渡す。
「なあに?」
「今日はあさひさんに探偵になってもらいます。私とルリヲさんは犯人です。早く推理して捕まえに來てくださいね。それじゃあ!」
ゆうかが僕の手を握って走り出した。ひゃあ、いきなりそんな事っ、デートみたいじゃん!滅多に觸れる事のない他人のぬくもりを感じながら、僕は未だ眠っている商店街を驅け拔けた。
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