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そんな調子で買い物は續く。
果物屋で僕は
「マンゴーとバナナどっちがいいの?皮が剥けたバナナと皮を被った儘のバナナどっちがいいの?」
とあさひを質問攻めにして輕く蹴りを貰ったり(ほんとは「キキキキキミのマンゴーは完熟マンゴーなのかい?甘い汁は出るのかい?」と叫びたかったんだけど、店員のかわいいお姉さんを視た瞬閒その言葉は喉の奧に引っ込んでしまった)、八百屋では松茸を見て輕くへこんでみたり、エノキダケを見て元氣を貰ったりした。いやぁ、ウエノってワンダーランドだね。僕を一瞬でハイにもローにもしてくれる。しかし、
「ねぇあさひちゃーん、荷物重いよお」
「ゴメンね、もうすぐで終わるからさっ。そしたらパフェでもケーキでも奢ってあげる」
「まじで!よーし俄然やる氣が出なくもない內に早く次の買い物行こうよー。今度は何處?」
「……っとねぇ」
あさひは再びおばあちゃんメモを取り出した。
「ん?何コレ……」
「どれ?」
僕も一緖にそのメモを覗き込む。
「痔の藥、いちぢく浣腸?」
「えー、やだあ。こんなの恥ずかしくて買えないよ。あたしが痔で便祕だと思われちゃう」
「何!恥ずかしいだと?貴樣は痔や便祕の人の事を馬鹿にして居るのか?貴樣のその差別主義こそが眞に恥ずべきものだぞ」
「そ、そんなことなくもないよ。いや、バカにはしてないけどさ、でもやっぱり恥ずかしいよ。そんな事言うんならルリヲが買って來て」
「えー、おれだってヤダもん」
「パフェ食べさせてあげないよ」
「わかった。しょーがないなー」
「とか言ってたらホラ、丁度良いところに藥局があるよ。行っといで」
僕はあさひに脅されて、無理矢理藥局の中に放り込まれた。藥局の中は各種醫藥品やシャンプーリンストリートメント、それからヒアルロン酸アミノ酸にコーキューテンだって負けちゃ居ない。美容と健康の素がキラキラとひしめき合うダンスフロアのようだった。
「ねぇあさひー、おしりの穴コーナーってどこ?」
「知らないよ。レジの人に聞けば?」
「えー、言うのやだよー。おれ、マゾでホモだって思われちゃうじゃん」
「パフェ!」
「はひっ」
ったくよぉ。あいつはいつからあんな風に恐喝とかするようになったんだ。昔は可愛かったのになあ。……ん、そうでもないか。昔からあんな風だったっけ。僕の方が年上なんだから、「お兄ちゃま」とか呼んでくれたっていいじゃん。ていうか普通の幼馴染みってそういう物なんでしょ?誰にも聞こえないように、僕はそっと唇の裏で呪いの言葉をキュートにキメる。そんな僕をレジで待ち受けていたのは二十代半ばの實直そうな靑年だった。僕は呪いの言葉を安堵の溜息に置き換えた。彼なら僕の告白を優しく受け止めてくれるだろう。
「すんませーん。痔によく效く藥といちぢく浣腸下さいいっ!」
こうなりゃ自棄だぜ、あさひ。おれの生き樣その目に燒き付けとけ。男がうじうじもごもご言えるかーい。なんてね本當は店中にこの言葉を響かせてみたかっただけなんだけど。
「あれっ、ルリヲさん?」
言ってやったという達成感にウットリしている僕を現實に引き戾したのは、苺を思わせる甘酸っぱい聲だった。
振り返るとそこにはマイ・ストリベリー・ミルクちゃん、そう
「ゆうかちゃん!」
うひっ。反射的に僕の口角が上がる。
「奇遇ですね、こんな處で會うなんて。ルリヲさん病氣なんですか?氣をつけてくださいね」
「違うよ!あれは僕の買い物じゃなくて、あさひのお祖母ちゃんの買い物でっ」
やばい。あれだけ氣合を入れて聲を出せばこの子にも聞かれて當たり前だ。僕の口許は簡單に引力に負けてしまう。
「うふふっ。いいんですよ、恥ずかしいことじゃないんですから。お大事にしてくださいね。惡化しちゃうと手術したりとかで、結構大變なんですよ」
「あ、イヤ。ハハァ……」
あぅあ。ゆうかちゃん、キミはなんて優しくて素晴らしい娘なんだ。今はその美しい心が恨めしい。
「お待たせしました、こちら痔の軟膏といちぢく浣腸です」
僕は店員から商品を受け取り、言われるが儘に代金を拂った。
「ルリヲ、買えた?」
今まで何處にいたのか、あさひが姿を表した。
「あさひさん!」
するとゆうかがあさひに驅け寄る。
僕はと言うと痔の藥といちぢく浣腸の入った袋を抱いた儘、モテモテ構造主義に於けるM男と浣腸プレイの位置付けに就いてボンヤリと考え込んでいた。
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