shooting star,over throw

幾島溫

小説

25,999文字

当時好きだった人が「長編1本書いたらご褒美に一緒に映画(變體村)見に行ってあげる」と云って呉れたので頑張って描いた作品でした。その人との関係は「きんいろワインの日」という話に書いてあります。

★5

「んで、キミは一體何を買いに來たんだい?」
「えとねー……んー……なんかね、おばあちゃんのお使いなんだけどさ」
あさひはそういってポケットの中からメモを一枚取り出して廣げた。
「此處で買うべきは、蟹とエビとあわびだよっ」
「あわび?」
「すいませーん」
「へいらっしゃい。お孃ちゃん、今日はイキのいいのが澤山屆いてるよ」
「マジですかー」
彼女は僕の聲なんてまるで聞いちゃいなくて、その視線をまっすぐに店員に向けている。
「アワビ?」
それでも彼女が何の氣なしに言った「アワビ」という言葉に僕の心は捉えられた儘だった。アワビ。じゅるじゅるのその姿が店先にないかと僕は血眼で探す。あ、あった。やつらは軒先の箱の中で貝の上にその肢體を廣げ、重なり合っている。か、かんのんさまの安賣りだー!おっと違う。これは僞物、そうフェイク!―っはぁはぁ。長岐に渡る欲求不滿が僕の判斷力を低下させていようだ。頭が弱くちゃモテないよ。こんな時にはカルシウムを補給しよう、いいやチキン質だ!
「ねぇねぇ、あさひタン。僕にも蟹買って。タラバの方でいいよ」
「やーだー。お前に食わせる蟹はないっ」
「はい、お孃ちゃん。お待たせ。重たいから氣をつけて持って歸るんだよ」
「ハーイ、ありがとー」
あさひがにっこり笑って魚屋の店員から海のお友達を受け取った。そしてその儘の笑顏をこちらに向けて
「はいっ、ルリヲくん。これよろしくねっ」
と僕に荷物を差し出した。あまりの鮮やかな手口に僕は斷り方とかツッコミ方とか、みんなみんな忘れてしまって
「ウン」
とそれを受け取る事しか出來なかった。

 

2024年8月24日公開 (初出 2006年3月12日 個人同人誌)

© 2024 幾島溫

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"shooting star,over throw"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る