★11
開店前のショッピングビルなんてとてもヘンな感じ。產まれた時から此處に住んでいるのにこんな景色は初めて見るよ。
何時もなら、僕に向かって手招きをするショーケースの中のフィギュア達も、この時ばかりは眠っているようだった。ペッタンペタンコ、階段を昇る僕ら二人の足音は時折重なったかと思うとすぐに離れる。
「ねぇ、何處まで行くの?」
「四階です。あさひさん、ちゃんと暗號解讀してくれるかな」
ゆうかが少し俯く。
「きっと大丈夫だって!ほら、もしもの時のために此處にも手掛かり落として行こうよ」
僕は二階と三階の閒の踊り場に自分のジャケットを脫ぎ捨てた。
「いいんですか?」
「大丈夫、大丈夫。あさひが拾ってくれるだろ。そうじゃなくても、後で取りに來ればいいんだし」
「ルリヲさんって優しいんですね」
ゆうかの顏から笑顏が零れた。襃められ慣れていない僕は、どう答えるべきなのかわからなくて頭が眞っ白になってしまう。めくれ、めくれ腦髓の中の辭書を。だけど焦れば焦るほどいい言葉が見つからない。
「そ、そおかな。ハハ」
違う。僕が言葉を知らないんじゃなくて、この娘を前にすると何も言えなくなるんだ。まるで初戀じゃん!僕も案外ピュアだったんだね。見知らぬ自分との對面に驚いたりしつつ僕はゆうかと一緖に階段を昇り切った。
「ねぇルリヲさん、折角だしいっその事私たちの步いた後に手掛かりを殘して行きませんか?」
「いいねっ」
「じゃぁ早速もう一枚いいですか?」
「えっ、何を?」
「洋服です」
さっきはジャケット一枚だったから潔く脫ぎ捨てることが出來たけど、それ以上は……
「えっ、まぁ……いいよ」
ゆうかの樣な子に上目遣いで拜まれてしまっては脫ぐしかない。僕は着ていた長袖のTシャツをその場に脫ぎ捨てた。お陰で生っ白い上半身が顯わになる。溫室育ちだってバレちゃうじゃんか。ちょっと恥ずかしいよ。僕は背を丸めずには居られない。
「さぁ張り切って行きましょー」
「ってか、ゆうかちゃん。コレ探偵ごっこなんだよね。なんかさー、アクションシーンとかは無いの?鐵砲バンバン擊ち合ったりさ」
「ルリヲさんっ」
「はいっ!」
「これはね、本格推理探偵活劇ごっこなんですよ。擊ち合いの競り合いとかそういうのは要らないんです……あっ、そろそろもう一枚お願いしますっ」
「はいっ」
言われるが儘に僕はベルトに手を掛けて、體溫の殘るズボンをその場に置いた。
「ゆうかちゃんは何時もこういう事をして遊んでいるの?」
パンツと靴とメガネだけを身に纏った僕は、平常心を心掛けて彼女に問い掛ける。
「そんな事ないです」
「そうなんだ。なんかさ、最初『探偵ごっこ』って聞いた時は何事かと思ったけど、結構樂しいね!」
「……嬉しいです」
橫顏のゆうかの頬が仄かに紅く染まったような氣がした。彼女はどうしてこんな遊びを思い付いたんだろう。あさひの夢が探偵だったから?否、それだけであんなに用意をするものだろうか。他に何か理由がある筈だ。あさひを探偵に仕立て上げ、僕と二人で犯人として逃げ回る。……ん?まさか、これって僕と二人きりになる爲の口實じゃないんだろうか。ゆうかはやっぱり僕の事が好きだけど言い出せない。だからあさひを卷き込んで、二人きりになるチャンスを作った。そういう事じゃないのかな。その證據にホラ、あさひから電話が掛かってきた時『折角二人きりになれたのに……』と彼女は言っていた。
この結論を導き出した瞬閒、僕はわけもなくゆうかの表情を確認した。すると視線に氣が付いたのか彼女も僕を視る。
「ルリヲさん……」
「なに?」
きたきたっ。この雰圍氣は。愛の告白だろ?
「そろそろ靴脫いで下さい」
「あっ、うんっ……」
從順な僕はその場でスニーカーを脫いだ。
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